震災直後、沿岸部を覆い尽くしたがれきを撤去し、生活を立て直すのに大きな役割を果たしたのが建設業界の人たちでした。仙台建設業協会では、この時の経験を元に次の災害に備え、教訓を生かそうという取り組みを進めています。

 宮城県警察機動隊永野裕二さん「自分の知っている町がどこなんだろう、というくらいの破壊のされようでしたね。私が災害現場に行った中でも岩手宮城内陸地震もあったが、あのようにあれだけ破壊された現場は初めてでした」

 震災直後に目の当たりにした光景を振り返るのは、県警機動隊の永野裕二さんです。多くの災害現場で人命救助や不明者捜索の陣頭指揮を取ってきましたが、大きな現場になればなるほど重要になるのが救助隊と建設業者の連携だと言います。

 宮城県警察機動隊永野裕二さん「やはり道路を切り開いてもらわないと、自分たちの出足も鈍ってしまう。救助部隊としては(建設業者の)重機に頼る部分は大きいと思う。自分たちが手作業でしかやれないところに来ていただいて、あの大きいものをどけてもらうんですから本当に作業がはかどって助かる部分が大きい」

 長く伸びた海岸線の奥深くまで、膨大ながれきが押し寄せた仙台市沿岸部。ここでも、救助隊と建設業者の連携は生かされました。仙台建設業協会は震災当日、仙台市から要請を受け会員企業に号令を掛け、沿岸部に重機やトラックを向かわせました。

 あれから11年。現在、協会の会長を務める建設会社、深松組の深松努さんは復興が進んだ若林区の沿岸部に立っても当時の光景がありありと目に浮かぶと言います。

 仙台建設業協会深松努会長「(震災前は)ここに家が建っていたのに、まったく流されて何も無くて。交差点の所にガソリンスタンドがあったが、がれきのモンスターみたいになっていて、最初はガソリンスタンドかどうか分からなかった。重機で道路の脇に田んぼの方に(がれきを)よけながら道を造って、前へ前へ海の方へ向かっていった。後ろから警察、消防、自衛隊が来て作業した」

 市内のがれきの総量は、一般ごみの4年分に当たる137万トン。撤去作業が終わったのは震災から約1年後でした。

 震災の経験は、南海トラフ地震が想定される地域で生かされています。今後40年以内にマグニチュード8から9クラスの地震が発生する確率が90%程度に引き上げられた南海トラフ地震。仙台建設業協会は、2018年に浜松の建設業協会と災害時の相互援助に関する協定を結びました。協定は、通常、行政と民間が結ぶことが多く、民間と民間、それも地域を越えて締結するのは異例です。

浜松建設業協会と協定

 仙台建設業協会深松努会長「同じ地震でやられない地区、同規模程度の都市と組むのが非常に重要。南海トラフ(地震が)来ても仙台は平気です。我々は燃料、食料、物資を調達できます。すぐ助けに行きます」

 協定では、どちらかで災害が起きた場合、要請がなくても24時間以内に駆け付けることになっていて、あらかじめ人員や機材、宿泊先などを決めておきます。仙台からは初動は10人程度を派遣。タンクローリーに満載した軽油と約1週間分の食料などを持ち込みます。

 浜松市は2005年に、近隣の11の自治体と合併し、面積は全国第2位の広さとなりました。災害時、地元だけで対応するのは困難です。

 浜松建設業協会中村嘉宏会長「地震・災害が起きた時に経験をしたことがある人間が助けに来てくれる。手伝いに来てくれるのは本当に心強い。一緒になって同じ目的である人命救助・災害対応をするのは、我々の誇りの部分でもある」

 救助、捜索、復旧、復興。いずれの局面でも大きな役割を果たす建設業界。しかし、次の災害が起きたとき、11年前と同じように地域に貢献できるのか。業界は今、難題に直面しています。そしてそれは災害への対応力に直結すると言います。

 仙台建設業協会深松努会長「高齢化、後継者がいない、担い手がいない、全産業が人の奪い合い。建設業産業は昔685万人いた。今は507万人に減っている。災害の対応力がどんどん落ちていく」

 いわゆる「震災特需」が去った後も、地域に根差した建設業者がいて初めて災害にも対応できる。そんな信念のもとに、仙台建設業協会は5年をかけて新たな取り組みを始めました。それが「官公需適格組合」の資格取得です。

 「官公需」とは、国や自治体が発注する公共工事などを指し、この資格を取得すると、組合単位での入札が可能となります。仙台建設業協会が2017年に立ち上げた杜の都建設協同組合は1月に申請が認められ、中小業者単独では受注が難しい工事を組合の共同事業として受注できることになりました。

 青葉区下愛子の小松建設も、加盟業者の一つです。従業員15人。社長の小松優さんは祖父の代から続くこの会社を守ろうと奮闘しています。

 小松建設小松優社長「今は(仕事の)取り合いなので競争が激しくて、(入札で)失格ぎりぎりの会社だと仕事が来るかという感じ。1回の入札で取れたらいいんですけど10本やって1本取れたらいいかなという感じ」

 現在は組合として受注できた県発注の広瀬川の護岸工事で、護岸ブロックの補修を担当しています。

 小松建設小松優社長「地域のお医者さんみたいなもので、何かあったら役所から電話あったりしたら夜中でも関係なく直しに行ったりしますので、無くてはならない商売だと思っている。地域に私は育ててもらったと思っていて、それを恩返ししなきゃいけない」

 地域に育てられた、地域のお医者さん。災害だけでなく、いざというとき、建設業界が地域から求められる仕事は少なくありません。

 例えば雪害。地域に建設業者がいなければ、まとまった積雪を取り除くことは難しく、命に関わる災害ともなります。また、家畜の感染症の一つ「豚熱」でも感染拡大を防ぐため、殺処分後の埋設処理を建設業者が担っています。

 次の災害に備え、浜松市との連携や組合単位での受注など手を打ってきた仙台建設業協会。深松会長は震災を経験したこの地域をより良い形で残していくことを目指しています。

 仙台建設業協会深松努会長「少しでも良い仙台、良い宮城、良い日本を残したいと思っているから、とにかく災害だけは関係なく来るのでいつ来てもよいようにしておかなければいけない。そういうことを仙台は今やっている」