東シナ海に浮かぶ沖縄県与那国島。日本の最西端に位置するこの島は、晴れた日には海の向こうに台湾の景色が望める。台湾まで約111キロ、沖縄本島からは約500キロ。いま、この「国境の島」は、日本の防衛政策の転換点を象徴する場所となりつつある。昨年11月、就任から間もない小泉進次郎防衛大臣が与那国島を訪れた。小泉氏は、「防衛大臣に就任して1カ月。できる限り早い段階で与那国に参りたいと思っていた」と語った。政府は、中国の軍事的台頭を念頭に、南西諸島の防衛体制を強化する「南西シフト」を進めている。その一環として、防衛省は2030年度を目標に、与那国島へ中距離地対空ミサイル部隊を配備する計画を進めている。
これまで島に配置されていたのは、主に監視を担う部隊だった。ミサイル部隊が配備されれば、飛来するミサイルや航空機への対処拠点として、島の役割は大きく変わることになる。今年3月、島では住民説明会が開かれた。「配備を急ぐべきだ」という賛成意見が出る一方、島が攻撃対象となる可能性への不安を口にする住民も少なくない。住民の請舛姫代さん(71)は、政府の説明姿勢に疑問を呈する。「政府は『丁寧に説明する』と言う言葉というか、納得するまで押し付けるという風にしか聞こえない」。
10年前、財政難と人口減少に悩んでいた島は、地域活性化を期待して自衛隊の誘致を選択した。人口は一時1500人を割り込んだが、現在は1700人近くまで回復。その約2割を自衛隊員と家族が占める。島民の泊利明さん(61)は「自衛隊がいないと運動会も成り立たない。村の行事もみんな頼っている。良いことじゃないか」と語る。ミサイル部隊配備に伴い、さらに100人程度の隊員が増える見込み。しかし、自衛隊員の増加が島の持続的な発展につながるのか疑問視する声もある。おきなわ住民自治研究所の山田和幸さん(73)はこう指摘する。「自衛隊員は防衛のため訓練をやっているわけ。電気、運送など地域を支える人が減っている」。
南西諸島の防衛強化は、与那国だけにとどまらない。熊本市の陸上自衛隊健軍駐屯地では3月9日、長射程ミサイルの搬入が始まった。国内で長射程ミサイルが配備されるのは初めてとされる。さらに静岡県の富士駐屯地でも3月31日に、同様のミサイル配備が予定されている。一方、温泉地として知られる大分県由布市の湯布院でも、防衛政策の変化が地域社会に影響を及ぼしている。
由布岳の山麓に広がる大分県由布市の湯布院温泉。その中心部に近い場所に陸上自衛隊湯布院駐屯地がある。古書店を営む鯨津憲司さんは、温泉街の隣でミサイル部隊が拡充されていく現状をこう語る。「駐屯地の正門から900メートルほど先が由布院駅。その間には旅館や商店、民家が並ぶ。まさに温泉街の中心的な場所」。湯布院駐屯地は、「敵基地攻撃能力を担う長射程ミサイルを運用することを想定している」とも報じられている。住民は防衛省に説明会開催を求めている。
同様の懸念は、大分市の大分分屯地でも広がっている。政府は2032年度までに、継戦能力の強化を目的として、全国で火薬庫130棟の増設を計画しているが、その一つが大分分屯地。建設予定地の周辺には住宅地が広がり、近くには保育所や小学校、病院もある。元自治会長の宮成昭裕さんは不安を隠さない。「そのアパートの左隅をずっと上がったところが保育所になりまして、それから直線でまっすぐが火薬庫だと」。近隣住民は反対運動を続け、チラシ配布などを通じて問題を訴えている。駄菓子店を営む三浦博子さんは語る。「やっぱり大きな火薬庫があるところを一番に狙うと思うので怖いです」「どうしてこんな街の中に、住宅地にね」。防衛力強化の最前線となる地域では、住民の暮らしと不安が交錯している。国家の安全保障と地域社会の安心をどう両立させるのか。日本の防衛政策は、いま新たな問いを突きつけられている。
政府は遠距離から敵戦力を無力化する「スタンド・オフ防衛能力」の強化を進めている。防衛省は3月31日を予定として、熊本県の陸上自衛隊健軍駐屯地に改良型の12式地対艦ミサイルを配備する。また同日には、静岡県の富士駐屯地には長距離攻撃能力を持つ「島しょ防衛用高速滑空弾」が配備される計画となっている。こうした装備配備を巡っては、地元住民から不安の声も上がっている。これについて、内倉浩昭統合幕僚長は13日、「ご指摘のようなことよりも、抑止力や対処力を高める効果の方が大きい」と述べた上で、「引き続き、丁寧に地域の方々に説明していきたい」と理解を求めた。小泉防衛大臣は13日、「スタンド・オフ防衛能力整備の一環として、米国製巡航ミサイル『トマホーク』の海上自衛隊への納入が開始された」と明らかにしたうえで、「わが国への武力攻撃を抑止することにつながる」と述べ、導入の意義を強調した。
★ゲスト: ジョセフ・クラフト(経済・政治アナリスト) 、斉藤貢(元駐イラン大使) ★アンカー:杉田弘毅(ジャーナリスト/元共同通信論説委員長)