中国軍の戦闘機が自衛隊機にレーダー照射を行った問題。中国側は「悪いのは日本だ」という姿勢を強めています。

中国外務省 郭嘉昆副報道局長 「日本が先手を打って、自分こそ被害者だと訴え、事実を歪曲し、責任を転嫁した」

防衛省は7日未明、中国軍の戦闘機による自衛隊機へのレーダー照射を明らかにしました。

1度目は、6日午後4時半ごろ、沖縄本島・南東の公海上空で。中国軍の空母『遼寧』から飛び立ったJ15戦闘機が、自衛隊のF15戦闘機に対し、約3分間、断続的にレーダーを照射。2度目は、その約2時間後。別のF15に対し、30分もの間、断続的に照射していたというのです。

防衛省は5日の時点で、空母『遼寧』が東シナ海を航行していることを確認。『遼寧』は翌日、沖縄本島と宮古島の間を通り、太平洋へ。その後、戦闘機やヘリコプターの発着が確認されたため、自衛隊機が緊急発進するなかで起きたのが、今回の照射でした。

自民党本部には、8日朝から防衛大臣経験者らが顔を揃えました。

自民党安保調査会長 小野寺五典元防衛大臣 「射撃用のレーダー照射ということでありますので、間違いなく、レベルは格段に危険な方向に上がってしまった。そして、これは、挑発行為と受け止めるべきだと思っています」 自民党 中谷元前防衛大臣 「いわゆる射撃するぞという威嚇、脅し。そういうのをかけて行動することは、国際法上も許されない」

中国側は、8日になって、こんな主張を繰り広げました。

中国外務省 郭嘉昆副報道局長 「艦載機が訓練中に“捜索用レーダー”を起動するのは、各国の通常のやり方であり、安全確保の正常な操作でもある」

“捜索用レーダー”とは、広い範囲にレーダーを放って、相手の位置を探すモードのことです。ただ、レーダーには、攻撃のために相手を追尾し続ける“火器管制用”というモードがあります。

こうした主張の違いは、過去、韓国との間でも起きていました。

7年前、自衛隊機が、韓国軍の駆逐艦から照射を受けた事案です。

日本は“火器管制用レーダー”で、ロックオンされたと訴えましたが、韓国側は、あくまで“捜索用”と主張。これに対し、日本政府は、韓国側から照射されたとされるレーダーの音を公開しました。

火器管制用レーダーは、相手を追尾し続けるため、音が継続的に鳴り続けます。一方、捜索用レーダーは、広い範囲に放つため、音は一定間隔になります。照射されている側からしてみれば、その違いは明白です。

今回の戦闘機のレーダーが、火器管制用だったのか、捜索用だったのか、日本政府は明らかにしていません。

自民党安保調査会長 小野寺五典元防衛大臣 「普通に探索をするレーダーと、距離を測って、ミサイルを発射して追尾させるためのレーダー。今回は“後者の方”の使い方を(中国側が)されたから、逆にこれだけ防衛省として発表したということ。言ってみれば“危険な行動”ということだと思う」

中国外務省 郭嘉昆副報道局長 「(Q.レーダー照射の目的は、攻撃ではなく、捜索のためか)再度、強調したいのは、事実は明らかに明白である。艦載が飛行訓練中に捜索用レーダーを起動するのは、各国の通常なやり方であり、安全を確保する正常な操作でもある」

中国側の主張に対し、政府内からは、こんな声が上がっています。

政府関係者 「めちゃくちゃな主張ですよね。相当長時間、レーダーを照射されていますから」

◆中国側は8日になって、レーダーは捜索用で、普段から使用しているものだとしていますが、専門家はどう見るのでしょうか。

海上自衛隊の元ヘリパイロットで、中国の安全保障政策に詳しい、笹川平和財団の小原凡司さんに聞きました。

小原さんは「そもそもレーダーは“捜索用”と“火器管制用”で周波数帯が違う。今回、照射されたレーダーがどちらなのか、自衛隊は明らかに把握している。今回、小泉大臣が『安全な飛行に必要な範囲を超える危険な行為』としていることからも、攻撃に使われる火器管制用レーダーが照射されたと見ていい。中国側が、捜索用レーダーだと言い始めたのは、もし認めると、国際的に批判を受けて不利になるとわかっているからではないか」と指摘します。

中国にとって不利との見方ですが、それでも今後もこうした行為は続くと見ていいのでしょうか。

小原さんは「高市総理の発言に習近平氏が非常に怒っていることから、各部が保身のために日本に対し、嫌がらせや、威嚇行為を考えているのではないかと。なかには『自分も何かやりたい』と考える者が過激な行動をとることも考えられる。こうした行為は、愛国的な行動という  大義に沿うもので、“上層部”もブレーキをかけづらい。党や軍の上層部、が危険な行為を指示することはないだろうが、現場レベルで“何かやってやろう”と無謀な行為に乗り出すパイロットなどが、今後も出てくる可能性はある」といいます。                                     ◆政治部官邸キャップの千々岩森生記者に聞きます。

(Q.中国軍の危険な行為は今後も続く可能性があるという指摘がありますが、日本政府は、やはり警戒しているということでしょうか)

千々岩森生記者 「まさにその通りですね。政府の安全保障担当者が、いま、レーダー照射と並んで警戒を強めているのが、その“後”の中国空母の動きです。レーダー照射は6日の土曜日。空母は、宮古海峡を抜けて、沖縄本島の南東の海上に進んでいました。その後ですが、ぐーっとカーブして、北東方面に移動。7日には、奄美大島の近くにまで展開していきます。空母が宮古海峡から、そのまま太平洋方面に抜けていく動きはこれまでもあったのですが、急転回して、日本の南西諸島に沿うように北東に進んでいくと。さらに、合わせて100回も戦闘機が発着を繰り返すのは、初めてです。まさに意図を持って、日本に圧力をかけているのではないか。官邸関係者は『極めて特異な動きだ』と緊張感をにじませていました」

(Q.高市総理は『冷静かつ毅然と対応する』としていますが、具体的に対応するのでしょうか)

千々岩森生記者 「その前に、もう一つ気になる情報があります。レアアースです。官邸幹部によりますと、中国の輸出に遅れが出ているといいます。これ、しばしば遅れることは、これまでもありましたので、中国の圧力かどうかは不明で、慎重に見ていく必要が、いまのところあります。 いずれにしても、2点です。 まず、日本は『国際社会と連携』して、世論戦で負けないと。政府の取り組み、正直、まだまだ足りていないと思います。もう一つは、『中国にエスカレートの口実を与えない』ことです。政府内では『冷静に』という言葉が、いま、合言葉のようになっています」