北海道から千葉県の沖合に伸びる、千島海溝や日本海溝を震源とする巨大地震についてです。
 真冬の深夜に発生した場合、宮城県内の死者は8500人、更に低体温症で6500人が死亡する恐れがあります。
 寒さ対策や夜間の避難をどうするのか。自治体は新たな課題に直面しています。

 3月22日、内閣府が千島海溝や日本海溝沿いを震源とする、マグニチュード9クラスの巨大地震が起きた場合の被害想定を公表しました。
 二之湯智防災担当大臣「今回対象にしている巨大地震は、最新の科学的知見に基づく最大クラスのものであり、東日本大震災の教訓を踏まえ、何としても命を守ることを主眼として検討してまいりました」

巨大地震 宮城県の被害想定

巨大地震の被害想定

 被害が最も深刻なのは、真冬の深夜に日本海溝沿いで地震が起きた場合です。県内の最大震度は6強。最大16メートルの津波が押し寄せ、約1万7000棟の建物が全壊すると想定されています。
 多くの人が就寝中で、避難の準備に時間がかかったり、暗闇や積雪などの影響で避難が遅れたりすると、死者は県内で約8500人、全体では19万9000人に上ります。

 更に、仮に避難できたとしても低体温症の危険にさらされ、県内では6500人、全体では4万2000人が死亡する恐れがあると試算しています。
 犠牲者をどう減らすのか。その鍵の一つが、寒さ対策です。

震災で低体温症を経験

 石巻市の高橋秀樹さんです。東日本大震災で津波に巻き込まれ、低体温症を経験しました。当時の石巻市の平均気温は0.4度。
 高橋秀樹さん「(津波の)水にぬれて雪降って。恐らく(夜)12時くらいまで回っていますので、かなり体力は無くなってたんじゃないかなと思います」
 木の上に避難し8時間以上が経過したころ、隣の住宅の2階に人がいるのを見つけ、避難することができました。住人の衣類を借りて着替え、布団にくるまり暖をとりました。
 高橋秀樹さん「(体の)感覚が無いんですよ。今まで経験しなかったような寒さだったし。亡くなる時ってこうなのかなっていうそういう感じですかね」

寒さ対策で低体温症を防ぐ

 低体温症とは、体の中心の温度が35度以下の状態を指し、28度を下回ると重症と分類されます。臓器の機能不全を引き起こし、最終的に心臓が止まり、死に至る可能性もあります。
 東北大学が、東日本大震災の犠牲者9527人の死因を分析したところ、低体温症で22人が亡くなっていたことが分かりました。
 このうち17人は、屋内で発見されていて、津波でぬれたまま避難した人や停電で暖房器具が使えず、低体温症になった可能性が考えられています。
 石巻赤十字病院副院長避難所・避難生活学会植田信策代表理事「ぬれなくても冬季になると室温が低くなりますので、その状態では低体温になる可能性は十分にあるということですね。(避難施設などで)最低限必要な物としては、体を温める物、道具ということになると毛布とかあるいは長期保存できる使い捨てカイロだとか」

津波避難タワー 仙台・宮城野区

 寒さ対策をどうするのか。仙台市では震災後、津波避難タワーを6基整備。震災の教訓を生かし、すべてに雨風をしのげる居室を設置しました。
 仙台市防災計画課御供真人施設整備係長「例えば、床もただの床ではなくて(断熱効果がある)マット状になっていたですとか、外気が入らないようにきちんとした壁、天井で塞いでいるという形になります」

 宮城野区中野5丁目にある津波避難タワーは、高さ9.9メートルで、居室に100人、屋上に200人が収容できます。寒さ対策として、300人分の毛布や6台のカセットボンベ式のストーブなどを備蓄しています。
 仙台市防災計画課御供真人施設整備係長「これで、1時間燃焼するというような火力的には(石油ストーブなどと比べると)そんなに強いものではないんですけれども、こちらで暖をとっていただくと。(6台全て使い続けて)16時間くらいは持つのかなと。電気ストーブですと停電の時に使えなくなる」

 県内の津波避難タワーは、仙台市の他に石巻市にも4基整備されていて、こちらも居室を備えています。一方で、課題なのが避難所の寒さ対策です。
 仙台市防災計画課御供真人施設整備係長「避難所は主に体育館が中心となっておりましたので、構造的に断熱効果が薄いというところがございます。そういった意味では、中で暖房をたいても効果はあまり発揮されない」

寒さ対策が課題

 khbの調べでは、県内の沿岸にある15の市と町のうち6つで、毛布やカイロなどの防寒関連の備蓄が避難所の収容人数以下にとどまっています。
避難所内での十分な保管スペースが無いことが大きな理由です。
 犠牲者を減らすためにはもう一つ課題があります。夜間の避難です。

夜間避難の訓練が重要

 1月にトンガで起きた火山噴火や3月の福島県沖地震では、いずれも深夜に県内の沿岸部に津波注意報、そして、避難指示が出されました。
 避難指示の対象者のうち、避難所に避難した人は1月が1%未満、3月は6%程度にとどまっています。
 内閣府の検討会は、迅速な避難により死者を最大で8割減らせるとしていて、避難行動の専門家は、小規模でも地域ぐるみで冬場や夜間を想定した訓練を実施することが重要と話します。
 東北大学災害科学国際研究所佐藤翔輔准教授「市や町全体で、夜や冬などなかなか実行は難しいかもしれないと思います。そういった意味で、個人や地域、事業所の単位で、そういった小さい単位で訓練をしていただくことも一つの手段かなと思います」