超高齢社会の日本で、介護施設が物価高と人手不足の二重苦に直面しています。

 仙台市青葉区の特別養護老人ホームせんじゅ。約100人の高齢者が暮らすこの施設が今、経験のない物価高にさらされています。
 増子努施設長「間を空けて電源を絞っているというか、照明を絞っている状況になっています。明るさは半分になっているので暗いのかなとは思うんですけど、基本的にはつけないというように職員のほうにはお願いしておりました」

 施設はオール電化で、照明は電力消費の少ないLEDに切り替えたほか、至る所に節約を呼びかける貼り紙があります。
 2022年は2021年より電気の使用量を減らすことができましたが、それでも年間の電気料金は約2800万円と1200万円近くも増えました。
 増子努施設長「相当厳しいですね。本来であれば1200万円が残るかたちになると思うんですけど」

 食材費も上がっています。5月には1食当たり50円、1カ月に4500円の値上げを決断しました。
 開設から12年目の施設には、風呂など修繕の必要な部分がありますがお金をなかなか回せません。
 増子努施設長「使うものをなかなか修繕できないっていう状況になると、職員のモチベーションだったりっていうところにもつながる部分なのかなと」

物価高で節約を

 厳しいのはこの施設だけではありません。業界団体が全国約1200の施設に調査したところ「物価高が続けば数年で倒産などの可能性がある」と答えた施設が3割にも上りました。
 背景には、介護施設ならではの難しさもあります。介護報酬は3年に1度、国が決めるため、コストの上昇分を価格に転嫁することが難しいのです。

 介護事業者の団体が5月に村井宮城県知事を訪ね、経営が厳しさを増しているとして支援を求めました。
 全国介護事業者連盟斉藤正行理事長「介護や障害福祉の事業は本当に社会のインフラですので、我々はサービスを止めることができない」

 追い打ちをかけるのが、慢性的な人手不足です。宮城県では2023年度に必要な介護人材が2247人不足していて、今後更に足りなくなると試算しています。
 宮城県長寿社会政策課高橋拓弥課長「いわゆる団塊の世代が全て75歳以上になるといったところの令和7年度(2025年度)でございますけれども、こちらの方で(足りない人材を示す)需給ギャップが4188人の見通しとなっております」

 せんじゅでも、十分な人材を確保できていません。
 増子努施設長「(常勤のスタッフが)あと4、5人は欲しいですね」
 人手が足りず、夜勤を終えた介護福祉士が更に残って働くことも。
 夜勤明けの介護福祉士「1人での夜勤で残業だと、ちょっと大変な部分もありますね。疲れですとか。(人手不足で)利用者さんがちょっと散歩に行きたいとお話しされた時でも、付き添ったりしなきゃちょっと危ない方とかですと、どうしても職員が少なくてここ1人しかないと、一緒に行けなくて」

外国人スタッフが貴重な戦力に

 増子努施設長「あの方、ミャンマーの技能実習生ウーさん」
 せんじゅでは、ミャンマーとベトナムから来た外国人の介護スタッフ6人が働いています。
 ミャッ・ノー・ウーさん(ミャンマー)「コーヒー飲む?これ下げるね」「日本の給料も高いから、家族を支えたいからです」「日本語はちょっと難しいです。勉強しています」

 ミャンマーで家族の介護をしていた経験もある、ウーさん。専門用語に苦労しながらも貴重な戦力となっています。
 スタッフ「(ウーさんが日本に)来てくれているのはすごいありがたいですね」

 自らも介護施設で働いた経験のある専門家は、こうした状態が続けば介護の質の低下につながると指摘します。
 東北福祉大学工藤健一准教授「(物価高が続けば)人件費の抑制というのに踏み切らざるを得ないとなるかもしれない。そういったことが進んでいけば、当然、最終的な介護サービスの質の低下にどうしてもつながっていくのではないか。(施設の)一部を開けることができないというような状況ですとか、あるいは事業そのものを運営していくのが難しいとかですね、そういったことも起こりえる」

 せんじゅでは、危機を乗り切るためデジタル技術を導入しました。ベッド下のセンサーで高齢者の睡眠状況を把握し、タブレットで確認できるようにすることで職員の見回りの負担の軽減を図っています。
 増子努施設長「高齢者の生活を守るということが、一番の使命かなと思っております。使えるものに関してはどんどん導入していって、職員の負担軽減だったりというところにもつなげつつ、継続して利用者さん入所者さんの生活を守る方向で進めていきたい」

山下裕志記者
 「介護施設への行政の支援は、人手不足について宮城県はベトナムから介護人材を招く取り組みを3年前から行っています。ただしコロナ禍もあり目標の約3分の1しか人を集められずにいます。円安で、日本での収入が相対的に減ったことも逆風です。取材した専門家は、超高齢化が進む日本がこの局面を乗り切れば世界のモデルになると話していました」