宮城県南三陸町で開発が進められている、宮城県では初めてとなる地鶏についてです。震災後、住宅を建てられなくなり手つかずとなっていた土地で育てた待望の地鶏です。

 志津川湾が目の前に広がる南三陸町戸倉地区。カキやワカメ、ホヤといった水産物の養殖が盛んな地域です。漁業を生業とする町で、今、新たな産業が生まれようとしています。
 旬鮮堂西條盛美社長「これが今育てている地鶏です。宮城県で初めて地鶏として飼育しようとテストを初めて、これが最初の出荷できる鶏」

 地元の水産加工会社、旬鮮堂が取り組んでいる宮城県で初めてとなる地鶏の生産です。地鶏とは、JAS=日本農林規格で定められている厳しい条件をクリアした鶏です。
1.在来種の血液が50%以上
2.飼育期間が75日以上
3.自由に地面を歩き回れる平飼いで育てる
4.1平方メートル当たり10羽以下で育てる
 これら全てをクリアしなければならないため、日本で流通する食用の鶏のうち地鶏はわずか0.5%しか存在しない稀少な鶏です。
 その分ストレスが少ない環境で時間をかけて育てるため、ブロイラーと呼ばれる最も流通量が多い鶏と比べ、鶏本来のうまみや歯ごたえがあるのが特徴です。

宮城県初の地鶏

 なぜ、水産加工会社が地鶏の飼育を始めようと思ったのでしょうか。
 旬鮮堂西條盛美社長「ここは震災の跡地です。前は住宅がいっぱいあって、そこは学校があったんです。(津波で)全部流されましたので、今、災害危険区域ということで住宅が建てられないので、そこを活用したいなとこの(地鶏の)事業を始めたんです」

 震災の津波で甚大な被害を受けた戸倉地区。震災前、680世帯2411人が暮らしていましたが、住宅は高台に集団移転し、新たに住宅を建てられない災害危険区域として土地だけが残りました。

 こうした防災集団移転跡地は、宮城県の沿岸12市町で計1145ヘクタールに及びます。南三陸町では95ヘクタール、このうち活用されていない土地は50ヘクタールと半分以上が空き地となっていて、利活用が長年の課題となってきました。

 そんな戸倉地区で生まれ育った西條さん。地域ににぎわいを取り戻そうと、2021年から防災集団移転跡地で事業を始めました。
 西條さんが元々持っていた土地に加え、町からも土地を借り約1.3ヘクタールでウニやギンザケの陸上養殖をスタートさせました。

 更にこの土地を生かした新たな取り組みとして、2022年7月から地鶏の飼育を始めました。地鶏は、鳴き声の騒音や糞による異臭のほか、飼育密度の規定や平飼いなどの飼育条件があるため住宅から離れた広い土地が必要です。

 防災集団移転跡地は、地鶏の飼育に適した場所でした。
 旬鮮堂西條盛美社長「1つの鶏舎で(地鶏を)何羽飼えるかとなると、ある程度の土地があって鶏舎を建てないと羽数を増やしていけないので。せっかくあるこういう広い土地なんで、それを利用できるこういう良い事業があれば、私たちとしては良いのかなと思っています」

地鶏飼育の適地

 地鶏の開発で難しいのが、他の地域の地鶏との差別化です。そこで、こだわっているのが餌です。よく見ると、海藻が混ざっています。
 旬鮮堂西條盛美社長「海藻は、グルタミン酸とかうまみが入っていますので、これが(地鶏の)うまみになってくれればということで、期待をして与えています」

 1月から本格的に飼育を開始し、約5カ月かけて育て6月上旬に初めての出荷を迎えました。
今回出荷したのは約100羽と数は少なめです。宮城県の飲食店やホテルで扱ってもらい、品質や市場のニーズについて意見をもらう、言わばお試し出荷です。

 この日は、宮城県の飲食店経営者や料理人らが集まり、初出荷した地鶏の試食会が開かれました。高い評価を得た一方、改善点も見つかったようです。
 飲食店経営者「もうちょっと歯ごたえと、うまみと(欲しい)。5日とか10日とか(出荷が)遅い方が(成長して)もっとインパクトが強くなるのではとすごく思うね」
 料理人「おいしいよ。だけども欲を言えば、(地鶏の成長を)ここで止めちゃだめだということさ」

改善点も見つかる

 西條さんは、販売先への営業を委託している商社の担当者を招き、今後の飼育方針を話し合いました。
 商社の担当者「食感が良いというところが一番、お客さんに多く聞かれた回答でした。味については、もう少し深みがあると良いと言われたんですけども」
 商社の担当者「海藻関係、ちょっとうまみを」
 旬鮮堂西條盛美社長「うまみを入れる餌だね」
 商社の担当者「少し増やしても良いかなって」
 旬鮮堂西條盛美社長「思ったような評価はいただけたのかなと思います。あと残り、どのような形でちょっとした上の評価をいただけるか、その辺を目指したいですね」

 被災地で育つ待望の宮城県初の地鶏。今後も餌の量や飼育期間を変えて肉の弾力や味わいを調節していき、2024年度からの本格出荷を目指します。
 旬鮮堂西條盛美社長「この地域のため、ここにいる人たちに何かできないかなという思いもありますので、私にできることはほんの小さなことかもしれませんが、それが皆さんにつながっていって輪になっていけば、もっと大きなこともできるかもしれませんね。それを期待して、もう少し頑張っていこうと思っています」