争点は時速70キロで車をバックで走行させることが危険運転にあたるのか。女性2人を車ではね、死傷させた罪に問われた裁判で27日午後、判決が言い渡されました。

■時速70キロでバック 危険運転か

 スピードを出しバックで走り去る黒い車。この後、死亡事故を起こします。

 午後3時半、事故を起こした運転手に判決が言い渡されました。

 法廷内に黒のスーツ姿で現れた松本岳被告(24)。歩道を歩いていた女性2人を車ではねて死傷させたとして、危険運転致死傷などの罪に問われています。

■去年6月 何が起こった?

 事故が起きたのは去年6月。松本被告は熊本市内で酒を飲んで運転し、追突事故を起こします。

 現場から逃げようとして約350メートルバックで走行。制限速度40キロの道路で時速70キロ以上のスピードを出していたといいます。よく見ると、車線をはみ出して蛇行していました。

 そして、バックで走行した先で歩道に突っ込み、女性2人をはねたのです。

 27歳の女性は死亡、一緒にいた20代の女性は全治2週間のけがをしました。

 亡くなったのは児童相談所で働いていた横田千尋さん。偶然、事故の約1週間前、街頭インタビューに答えていました。

 同僚によりますと、常に笑顔で職場の雰囲気を明るくする存在だったといいます。

■検察と弁護側の意見が真っ向から対立

 この裁判の最大の争点は時速70キロのバック走行が危険運転にあたるのか否か、です。

 法律には危険運転致死傷罪が適用される要件の1つに「進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」とあります。

 この解釈を巡り、検察と弁護側の意見は真っ向から対立しました。

 検察は時速70キロという高速度でバックしたことが制御困難に至った原因だと主張。危険運転致死傷罪が成立するとして、懲役12年を求刑しています。

 一方、弁護側は「制御困難に陥った主な原因はバック走行にあった」などと主張。原因が“速度”ではなく、法律の要件にある“制御困難な高速度”にはあたらないとしています。

■裁判所の判断は?

 時速70キロのバック走行を裁判所はどのように判断したのでしょうか。

判決 「後退進行の場合であっても一定の速度であれば車線を保持することは十分、可能と考えられるが、被告人車両が自車線内に戻ってまもなく西側歩道への逸走が生じたことは、ここに至って速度が速すぎて車線を逸脱してしまったものとみざるを得ない」

 熊本地裁は危険運転致死傷罪を適用。検察側の求刑通り、懲役12年の実刑判決を言い渡しました。

 松本被告は姿勢を崩さず、判決を聞いていました。

 事故で亡くなった横田さんの父親も法廷で判決を聞いていたといいます。

遺族の代理人弁護士 「結果としては我々が考えていた罪名が認定されたことについては率直に適正な評価、法に従った評価が下ったと認識している」

 そのうえで、被害者にとっては終わらない事件の一過程にすぎないと話していました。