特集は、令和のコメ騒動に揺れる農家です。

 3年前に農家を継いだ女性。コメ作りに奮闘する姿を追いました。宮城県栗原市の黒澤亜希さん(36)は、東京ドーム約11個分の広さの田んぼを持つコメ農家です。元歯科衛生士で、3年前に実家の農業を継ぎました。

 黒澤亜希さん「今の情勢に振り回されたくないっていうのが正直なところで」

 コメの価格高騰に、猛暑や水不足。高齢化や人手不足の問題も山積みしていて、農家を取り巻く環境は厳しさを増しています。

 そんな中でも前向きにコメ作りに挑戦する農家を追いました。

 5月上旬。コメ作りに向け、苗を育てる作業が始まりました。種もみを播き約4週間。12センチほどになるまで育てます。

黒澤亜希さん「今回久しぶりに何十年ぶりかに新しくなった機械なので、速くてその分、私たち人間の方が追い付かなくなるので、事前準備が大変になってきましたね」

 3年前、未経験でコメ作りの世界に飛び込んだ亜希さん。

 黒澤亜希さん「最初は、私、歯科衛生士だったので、全然違う仕事をしていて、継ぐ気も一切なく興味といって興味もなく、本当そういう感じだったので」         

 黒澤家は祖父の代からの農家です。しかし、両親のけがや体調不良が重なり、家業の存続が危ぶまれる事態に。悩んだ末、亜希さんをコメ農家に導いたのは、趣味の「体づくり」でした。

 黒澤亜希さん「体づくりで筋トレをしたりとかしていて、本格的にプロのトレーナーさんに習っていくうちに、思った以上にお米を食べてしっかり体をつくって減量するっていうのが分かって」

 体づくりをコメづくりのPRに生かせる。そう考え、コメ農家として歩む覚悟を決めました。

 継いだ当初は、30ヘクタールだった農地が今では50ヘクタール以上に拡大しました。東京ドームおよそ11個分の広さです。

 黒澤亜希さん「地域で農家を続けたくても続けられなくなっているお家がとても多くて、ご高齢になったりですとか、あと機械がすごく高額なので壊れてしまったのを機にうちにご依頼いただいたりとか、そういう家がすごく増えましたね」

 農家の減少と高齢化は深刻です。農林水産省によると、全国のコメ農家は2000年には約174万戸でしたが、2020年には約70万戸と20年で6割ほど減っています。更に、コメ農家の約9割が60歳以上です。なり手がいない中、若い農家は地域にとっても希望です。

 父・義広さん「うれしかったですね本当はあきらめてたんです。弟と一緒にやりたいって言われた時は、やっぱりうれしかったですね」

 依頼している農家「結局一人で出来ないですからね、人を頼りにするしかないし、これからはその方が若ければ良いんだけどね」

 作付け面積が広がり、作業量が増えたため、2025年から従業員を雇いました。中学生の長男、結人さんも手伝います。

 黒澤亜希さん「結人、鎌ちゃん(従業員)と乗ってごらん、覚えるかもよ、運転一緒にやってみな」

 結人さんは、亜希さんの姿を見て農業の道を志すようになりました。

 結人さん「笑顔でお客さんにお米を渡したりしているので、お母さんが一番かっこいいと思います」

 黒澤亜希さん「別に無理やりさせるつもりもないですし、何のお仕事に就いても良いよって言っているんですけど、こうやってお米作りとか食とかに関わることに興味を持ってくれたっていうのはすごいうれしいですね」

 田植えにかかる期間は約1カ月半。5月から暑い日が続きました。コメの出来は天候に大きく左右されます。

 黒澤亜希さん「丸一年同じようなことってないので、基本的に毎年1年生状態っていうか。気候とかによっても全然違いますし、本当に毎年お勉強って感じですね

 稲が育ち始めた、7月。雑草の除去やカメムシの防除作業に大忙しです。2025年は、カメムシが例年以上に発生すると懸念されています。

 黒澤亜希さん「カメムシがコメを食べちゃうんで、そうならないように消毒の期間に入るため、結構、ドローン業務はバタバタですね」

 以前は、父親が重さ20キロほどのタンクを背負い、手作業で散布していました。しかし、負担がかかるため、4年前にドローンを導入しました。

 ドローンの他にもアプリを使用して農地を管理するなど、作業の効率化を進めています。目指すのは「新たな農業の形」です。SNSを通じて独自の直売にも力を入れています。積極的に自身のコメづくりや魅力をアピールしています。

 黒澤亜希さん「どんな感じで作ってるのか知ると食べる時も気持ちが違います。て皆さん言ってくださるので、ちょこちょこ発信するようにしてましたね」

 2024年産のコメは2月で売り切れ。今まで取引の無かった会社からも問い合わせが相次ぎ、例年の3倍以上の連絡が来ました。

 黒澤亜希さん「お米のニュースが入ってくる度、すごい数をご注文いただいて完全にうちもパンク状態という感じになって、在庫も把握しきれなくなるくらい一気に注文が来て、急いで注文終了して」

 8月上旬。順調に進んでいたコメ作りですが。

 黒澤亜希さん「田んぼがひび割れちゃってて穂がまだ出てない」

 猛暑と雨が少なかった影響で、水不足に直面していました。

 黒澤亜希さん「穂がもっともっと出ててもおかしくないんですけど、この時期に水が全然なかったので、かなりダメージはありますね」

 稲に穂が出る大事な時期。水が足りないと生育に影響が出て、収量に不安が残ります。

 黒澤亜希さん「ここから常に水があったところで、どのくらいコメが回復するかっていう感じはありますよね」

 コメの価格高騰に、猛暑や水不足。備蓄米放出やコメ増産の動き。コメ農家は大きな転換期を迎えています。亜希さんが望む、未来とは。

 黒澤亜希さん「私たちも安心して生産できて、消費者たちも安心してコメを買うことができるように早くなってくれればなと」