宮城の海の異変についてです。南三陸町では、温暖化による生態系の変化を把握し対策に役立てようと新しい技術を使った調査が始まっています。キーワードはDNAです。

 26日、南三陸町の志津川湾では今シーズンの秋サケ漁が解禁されました。しかし、初日に水揚げされたのはわずか22匹。近年、深刻な不漁が続いています。
 サケ漁師「期待はあったんだけども、前年より厳しいなと」

 県水産技術総合センターによると、県内のシロサケの水揚げ量は年々減少しています。海水温の上昇や、それに伴って餌となるプランクトンが減少していることが要因と考えられています。
 仲買人「サケもそうですけど、天然の魚がとにかく激減している」

環境DNA調査

 漁業関係者の間で広がる温暖化への不安。南三陸町では、こうした不安を取り除こうと、志津川湾の生態系の変化を正確に把握するための新たな技術を使った調査が始まっています。
 町の研究機関である南三陸ネイチャーセンターが、2019年の秋から毎月1回行っているのが環境DNA調査です。
 環境DNA調査は、バケツでくみ上げた海水を解析することで、海の中に生息する魚の種類や分布が分かる新たな調査方法です。
 南三陸ネイチャーセンター鈴木将太研究員「志津川湾にどんな魚がいるのかっていうのが第一の目的で、あとは続けてこの調査をしていくことで、季節的だとか各年だとかそういった魚の種類の変化をこの調査で追跡しています」

 これまでの調査では、実際に潜ったり網を使ったりして魚を捕まえる必要があり、生態系を正しく把握する上で限界がありました。環境DNA調査では、簡単に多くの場所で調査を行えることで大量のデータが手に入り、生態系の現状や温暖化による変化などを正確に把握することが可能になりました。

 調査するのは、海水の中に存在する魚のうろこやふん、体液などに含まれているDNAです。
 南三陸ネイチャーセンター鈴木将太研究員「我々人間もそうですけど、歩いていたら髪の毛が抜け落ちたりしていて、地面に落ちたりしていると思うんですけれども、そういうようなことが魚も同じように海の中で起こっているんですね」

 くみ上げた海水を注射器とフィルターを使ってろ過して魚が海水中に排出した物質を取り出し、その後、千葉県にある研究所でフィルターに残された魚のDNAを解析します。DNAは魚の種類ごとに並び方が異なっているため、配列を読み解くことでどんな魚がいるのかが分かります。

海の異変が明らかに

 この新しい調査方法によって2021年1月、温暖化によって志津川湾で起きている異変が明らかになりました。
 南三陸ネイチャーセンター鈴木将太研究員「暖水系の魚で注目しているのは、アイゴという魚。1月というと大体水温がかなり落ち込んできて、南の魚は生きていくのがつらいくらいの水温になってきているんですけど、そのぐらいの水温でもアイゴが検出されている」

 志津川湾で問題になっている、生き物によって海藻が食べつくされる磯焼け。その原因となる暖かい海に生息するアイゴやクロダイが、温暖化によって海水温が上昇したことで、志津川湾にすみついた可能性が調査によって分かったのです。
 南三陸ネイチャーセンター鈴木将太研究員「クロダイなんかは4月とかそのくらいのサンプルからも検出されているので、もしかしたらクロダイが志津川湾で越冬している。なんなら再生産、子どもを産んでいる可能性も考えられるかなと思います」

 海藻類が生長する冬にアイゴやクロダイが湾内にとどまり海藻を食べると、磯焼けの進行が加速する恐れがあります。
 南三陸ネイチャーセンター鈴木将太研究員「ワカメとか海藻の養殖に影響を及ぼし得るアイゴとかクロダイとか、そういった魚の動向というものを環境DNAのモニタリングを通して追って行って、そういうデータを提示して漁業者の皆様に活用していただければなと思っています」

注目を集める環境DNA調査

 海の生態系の変化を正確に把握できる環境DNA調査は、大きな注目を集めています。環境DNA調査の第一人者である東北大学大学院の近藤倫生教授は、志津川湾をはじめとする全国861地点で行った調査結果を解析し、ホームページ上で公開しています。

 2019年からこれまでに行われた調査は延べ4298回、検出された魚は885種類に上ります。近藤教授の描く未来は、調査で手に入れた膨大な量のデータを使って、漁場の予測や生態系の制御を可能にすることです。
 東北大学大学院生命科学研究科近藤倫生教授「生物の分布とか個体数の変動って、めちゃめちゃじゃないですよね。必ず背後にルールがあると。だから、そのルールが分かれば基本的にその予測ができるはず。水産業に関連して言えば、例えば漁場の推定みたいなものができれば良いし、あとは生物の変動予測、水産資源の変動予測みたいなことができれば役に立つ」