命を脅かす病に直面する患者の痛みや苦しみを和らげるための緩和ケア。がんが見つかって間もなく緩和ケアを利用し、治療を続けている女性と支える医師です。

 仙台市青葉区に住む50代の女性。2021年の秋、がんが見つかりました。患者の少ないまれながんで、医師からは手術での治療は効果が期待できないと告げられました。
 がん患者の女性「普通じゃない背中の痛みが続いたんですよ。これはおかしいなと思って、近くのお医者さんに行ったんですけど。(がんだと告げられて)頭で考える余裕もなく、言葉だけが体に入ってきたっていうのが、その時の正直な気持ちですね」

緩和ケアを続ける女性患者

 放射線や抗がん剤による治療が始まると、薬の副作用で髪の毛が抜け爪が黒く変色しました。がんによる激しい痛みに眠れない日が1カ月程続きました。
 「目が覚める胸がとても痛い」「痛みがあり、生活にも不安がある」
 がん患者の女性「やっぱり将来のこと、仕事が続けられるかどうか、治療によって体の外見とか変わってきますよね。外見が変わってきたりとか、ご飯食べられなくなったらどうしようとか、いろんな不安が出てきた」

 主治医に勧められたのが緩和ケアでした。しかし、当初は戸惑いを感じたと振り返ります。
 がん患者の女性「何だろう、どんな所なんだろうって思いました。その時に自分が持っていた緩和ケアのイメージは、ある程度がんの段階が進んだ人が治療を受けるってイメージで思ってました」

 緩和ケアを担当している東北大学病院の田上恵太医師(41)です。田上さんは、緩和医療の専門医として、これまでに数千人の患者と向き合ってきました。世間には、まだ緩和ケアに対する誤解が残っていると話します。
 東北大学病院田上恵太医師「緩和ケアと聞くと終末期であるとか、死を常にイメージさせられている。そういうところがちょっと世間における誤解であるなというふうに感じています」

 緩和ケアは以前、WHO=世界保健機関によって治癒を目指した治療が有効でなくなった患者に対するケアと定義されていました。しかし、手術や薬などの進歩でがんとともに生きる人が増えたことから、現在は命を脅かす病を抱える患者の痛みや苦しみを和らげ、生活の質を改善するための治療やケアの総称とされています。
 東北大学病院田上恵太医師「治療中から、診断時から相談できることで、日常の生活を保ちやすくなるという治療をしながら今まで通りの生活を送れるというメリットがあるかと思います」

 国立がん研究センターによると、2019年には新たに100万人近い人ががんと診断されています。国内では、2人に1人ががんにかかる時代です。近年、緩和ケアのニーズが高まっています。

ニーズが高まる

 東北大学病院では、終末期の患者が過ごす緩和ケア病棟、医師や看護師、薬剤師らが協力して入院患者を支える緩和ケアチーム、そして緩和ケア外来を設けています。
 宮城県では、東北大学病院を含む6つの病院に緩和ケア病棟が、16の病院に緩和ケアチームが設置されています。

 がんの診断を受けてから約1年2カ月。今も抗がん剤による治療と並行して月に2回、緩和ケアの診療を受けています。
 田上恵太医師「どうでした?」
 がん患者の女性「そうですね、お薬減らして1カ月くらい経つんですが、痛みもそんなに変わらずに、順調に過ごしています」

 痛み止めの薬が効果を発揮し、Aさんはしっかりと眠れるようになり食欲も戻ってきました。がんになった後も、変わらず仕事をしています。
 田上恵太医師「やっぱり何か病気自身が神経をちくちくしているので、痛みを強くしていたというのが明らかなんでしょうね」
 がん患者の女性「そうですね。痛みもだいぶ。おかげさまで」
 田上恵太医師「今年はね」
 がん患者の女性「そうですね、本当にね、先生のおかげです」

がんと共に生きる

 がんと共に生きる。その患者を支える緩和ケア。
 がん患者の女性
「かぶろうと思って、買っていたものがあるんです」
 新しく買った帽子をかぶって、関東地方で暮らす子どもたちに会いに出かける日を心待ちにしています。
 がん患者の女性「痛みが無くなった時は、次にがんをどうにかしなくちゃいけないって、こっちに目が向いてきましたね。そんなに怖がらなくても、治療していけるんじゃないかという気持ちになってきました」
 田上恵太医師「抗がん剤治療を受けていけるような体力、気力になられたお姿を見るのはやっぱりとても喜びではありますね。(緩和ケアの役目は)病気と診断されて治療を行ったとしても、今まで通りの生活を送りながら治療と生活を送れていくことをサポートする役目だと思っています」