津波で流された人の位置情報を把握し、早い救助につなげようとGPS付きライフジャケットの開発が進んでいます。背景には、震災で同僚を失った宮城県南三陸町の元職員の思いがありました。

 海に浮かぶダイバーが身に着けているのは、GPS装置が取り付けられたライフジャケットです。GPS装置は災害時に自動的にスイッチが入り、72時間以上通信が可能で50キロ以上離れた場所でも位置情報が把握できます。
 ガーディアン72有馬朱美社長「津波が来た時に急いで身に着ける、もし海に流されて行ってもその人がどこにいるかどこに流されているかが分かる」

 災害支援事業を行う東京都の企業、ガーディアン72が南三陸町と連携して開発し1回目の実証実験では沖合5キロのGPSの位置情報を町役場で取得し救助に向かうことができました。

GPS付きライフジャケットの開発

 万が一流されても海面に浮上して呼吸が確保でき迅速な救助にもつながるGPS付きライフジャケットは、13年前の震災の教訓が開発のきっかけとなりました。
 元南三陸町職員高橋一清さん「防災庁舎の上で最後まで仲間たちが全力で頑張っていた姿を思い浮かべた時に、もしライフジャケットを着ていたらどう結果が変わったのかという思いがずっとありました」

 南三陸町の元職員高橋一清(63)さんは2011年3月11日の地震発生時、防災対策庁舎の隣にあった町役場にいました。
 元南三陸町職員高橋一清さん「突然ドンという強烈な揺れが来た時に、これはただ事ではないと思ってすぐさま防災対策庁舎の3階に駆け上がった」

 その場で高橋さんは上司と相談し、災害対策本部の置かれた防災庁舎を出て避難所の開設のため高台にある志津川中学校に向かいました。地震発生から約40分後、高橋さんは避難所の窓から津波を目撃します。
 南三陸町元職員高橋一清さん「まだ逃げていない人達も、車が走っていたりもしたので、とにかく必死で早く逃げろ早く逃げろと叫んでいました」

 最大23メートルを超える津波が押し寄せ、町は壊滅しました。海岸から500メートルほどに位置する防災対策庁舎には、3階建ての屋上を超える津波が押し寄せ町の職員ら43人が犠牲になりました。
 南三陸町元職員高橋一清さん「仲間の思いは消えることは全く無いですね。だからこそ彼らの犠牲を無駄にしたくないですし」

 東日本大震災では1万5000人以上が亡くなり、その9割が溺れて亡くなったとされています。冬場で気温が低く、低体温症が死因となった人も含まれていると言われています。生存率を高められる方法は無いか、高橋さんは知人の有馬朱美さんに相談し、GPS付きライフジャケットを開発することになりました。

 2月に南三陸町で行われた2回目の実証実験です。
 南三陸町元職員高橋一清さん「暖かいですねもう暑いですね。でも歩けなくはないのでこれなら一定の避難行動はとれると思います」
 ガーディアン72有馬朱美社長「流されても低体温症から少しでも体を守ることができて、救助に行く時間がこれで保てる」位置情報の把握だけでなく低体温症やがれきから身を守れるよう改良が進められています。

実証実験を重ねる

 実証実験では、迅速な避難が難しい高齢者施設の入所者が使用できるよう、着用にかかる時間を計測し課題を確認しました。
 参加者「伸縮性が出てくるとより着せやすいし、着るほうも着心地良く密着感があって安心感があるのかな」「母親とおばあちゃんを津波で亡くしているので、自分の家にあれば良かったなって感じました」

 南三陸町と企業は今後も実証実験を続け、取得した位置情報を消防などの救助者へどのように伝達するかなど課題を解決し夏ごろの実用化を目指しています。
 ガーディアン72有馬朱美社長「東日本大震災で被災した人たちの思いが詰まってこれから先の災害に対応できる、そういう物にしていきたい」
 南三陸町元職員高橋一清さん「二度と同じような目に遭わないように、これからの災害においても役立てば」