先月30日、太平洋側の広い範囲に出された津波警報。その時、観光地・鎌倉で海のそばにいた人たちは、どう動き、どこへ避難したのか…。さまざまな課題も見えてきました。(8月2日OA「サタデーステーション」)

■避難所の場所が分からず

国内外の観光客で賑わう古都・鎌倉でも、先月30日、津波警報が発表されました。

(防災無線のアナウンス) 「海岸にいる方は避難してください」 「WARNING. A TSUNAMI IS APPROACHING. MOVE TO HIGHER GROUND.」

青空が広がり、行楽日和だった鎌倉の海岸では、一刻を争う事態になっていました。

由比ガ浜監視所ライフセーバー 林亮太さん(鎌倉市・由比ガ浜海水浴場 1日) 「一番最初に入手した情報として、津波の注意報ではなくて津波の警報だったので、来ることはほぼ確実なんじゃないのかなと」

鎌倉ではそれまで「津波注意報」は出ておらず、突然、「警報」が発表されたのです。

当時の茨城県の大洗海岸の映像では、笛を鳴らしながら、赤と白のフラッグを大きく振り、避難を呼びかける様子がうかがえます。

由比ガ浜監視所ライフセーバー 林亮太さん(鎌倉市・由比ガ浜海水浴場 1日) 「ここの海岸にどれくらいの津波がどれくらいの時間で来るのかというのが、第一報としてはまだ分からなかったので、ちょっとそれを調べるよりかは先に避難誘導を開始しようと。荷物そのままで、すぐに避難しますよと」

海や海岸にいたおよそ200人全員を、およそ10分で海岸から脱出させました。

当時、鎌倉の由比ガ浜海岸を観光していた、アメリカ人観光客のアダム・ピアースさん。避難する様子を撮影していました。ピアースさんも、海岸から離れましたが…

アメリカ人観光客アダム・ピアースさん(避難時に撮影していた動画) 「今、とにかく高い場所に避難しようとしているところです。正直、これはヤバい。警報が鳴ってるんです。津波が来るかもしれないのに、高い場所がどこにあるかさえ分からない。とにかく高い場所へ行こうと歩いているんですが、走っている人たちが見えます」

外国人観光客をどう避難させるかは、どの観光地でも大きな課題です。2日、ピアースさんに話を伺いました。

アメリカ人観光客アダム・ピアースさん(神奈川・鎌倉市 2日) 「どこに逃げたらいいかも分からなかった。だから10秒くらい完全にパニックに陥った。これが(避難中に)目にした標識です。海抜の高さは表記されているのですが『この先避難所』とは記載されていません。『津波に注意』と書いてあるだけです。かえって不安になってしまいました」

周辺には、避難所を示す看板もありましたが、気が付かなかったといいます。結局、人を探して後を追いました。

アメリカ人観光客アダム・ピアースさん(神奈川・鎌倉市 2日) 「サーファーたちが左の道に進んだので、私も後を追いかけました。日本語がわからない私たち外国人には、情報が本当に少なくて、それもまた不安要素でした」

■何を持って逃げるか…判断の難しさも

向かった高台の避難所にも課題が。ボランティアとして避難誘導にあたった橋本さんは。

救護団体KFAT災害担当 橋本玄副隊長(19) 「ここからが坂道。ここからやっと高台に逃げてるというような避難になるが、道の両端に皆さんも座り込まれている方が多くいらっしゃっているような状況でした。ご高齢の方に話を聞くと、足腰が悪くて、上がる力がもうないんだと」

橋本さんたちは、道端に座り込む高齢者らに声をかけ、車に乗せ、高台の避難所まで何度も送り続けました。

鎌倉市では、8分ほどで巨大津波が押し寄せてくる事態を想定したCGを作り注意を呼び掛けていますが、今後の課題について市の担当者は。

鎌倉市観光課 橋本祐希課長補佐(神奈川・由比ガ浜海水浴場 1日) 「今回は英語と韓国語、中国語の多言語で、津波警報が出た旨の防災無線の放送を流しています。やはり情報発信の大切さ重要性というのは、 非常に感じた」

また、海岸などからの緊急避難について。

鎌倉市観光課 橋本祐希課長補佐(神奈川・由比ガ浜海水浴場 1日) 「(海岸から)靴を履かないで逃げてしまったとか、物を浜に置きっぱなしで逃げてしまったということもありますので、その後、取りに行って大丈夫なのかという質問があったり。とにかく、すぐ着の身着のままで逃げるのか。それともこの先の待機(避難)時間を考えて、できるだけ準備して、いつでも(家や宿泊先に)帰れる態勢を取って逃げるのかというのは、判断が難しい」

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高島彩キャスター 「避難の仕方にも多くの課題が見えますが、鎌倉市では防災無線を聞いて、裸足や水着のまま荷物置いて避難した人もいたということでした。アナウンスの内容に改善の余地はあったのでしょうか」

板倉朋希アナウンサー 「津波警報の直後、鎌倉市の防災無線では『津波警報が発表されました海岸付近の方は高台へ避難してください』『海岸にいる方は避難してください』というアナウンスが流されました。ただこの時すでに気象庁からは津波到達予想時刻も発表されていましたが、この情報については防災無線では伝えられませんでした。これについて災害時の情報伝達と受け手の心理を研究する、東京大学大学院の関谷教授にうかがったところ、『防災行政無線は命を守るのが第1の目的で、反響を防ぎ聞きやすく、ゆっくり放送するものなので多くの情報は入れられない。だから今回の鎌倉市の“避難しろ”という点に絞ったアナウンスについては問題ない』ということでした」

高島彩キャスター 「柳澤さん、今回は揺れがなかっただけに避難の判断というのが少し難しかったのかなと感じましたが」

ジャーナリスト柳澤秀夫氏 「今回、揺れがなかったことで注意報や警報の受け止め方が人によって違って、それが行動の差にもつながったんだと思うんです。避難マニュアルというのは、確かに必要なんですが、100%正解とは言い切れませんからね。季節だとか時間帯、さらには自分がどこにいるかによってもその時の行動は変わってきますから、普段からさまざまなケースを想定した上で、どう行動するか絶えず試行を重ねていく以外に道はないような気がします」

高島彩キャスター 「緊急のときに思考が停止してしまうということもありますし、いま行楽シーズンですから、行き先の避難場所を想定しておくことも大切です。警報というのは、『知らせ』ではなくて『行動の合図』だという認識を、改めて大切にしたいと思いました」