猛暑や水不足、そして価格高騰に振り回されながらも米農家を継いだ宮城県栗原市の女性が稲刈りを迎えました。
宮城県は稲刈りシーズン真っ盛り、収穫の秋を迎えています。米農家にとって待ちに待った瞬間です。作業に汗を流す宮城県栗原市の黒澤亜希さん(36)は、3年前に歯科衛生士をやめて実家の米農家を継ぎました。
米の価格高騰に猛暑や水不足などに直面し、農家を取り巻く環境は厳しさを増しています。
黒澤亜希さん「やっとここまで来たなって感じですね」
ようやく迎えた稲刈りまで、多くの苦悩と努力がありました。
8月上旬、稲に穂が出始める大事な時期です。
黒澤亜希さん「ダムの渇水について、水がどれくらいの期間でゼロになるかっていう案内が回ってきてて」
亜希さんの田んぼは花山ダムから水を引いていますが、猛暑と雨が少ない影響でダムの底が露出しひび割れていました。8月の栗原の平均気温は平年より2.4℃高く、降水量は平年の半分ほどでした。ため池から水を引く田んぼでは。
黒澤亜希さん「ひび割れちゃってて穂がまだ出てない。穂がもっともっと出ててもおかしくないんですけど、この時期に水が全然無かったのでかなりダメージはありますね」
水不足だけではありません。
黒澤亜希さん「周りの草もこの前も刈ったばかりですけど伸びてしまうので、いくら水不足って言っても草の成長は水関係ないのかなってくらいすごいですねやっぱり」
「きょうはカメムシの防除作業。早朝が一番風が舞いというのと、夏はもう暑くていくらドローンでそんなに動かないといっても、かなりつらい暑さになってきちゃったので」
米を食べてしまうカメムシは全国的に大量発生しました。対策に追われる日々が続きました。
亜希さんは夫と中学生の長男との3人暮らしです。朝の農作業を終えてから朝食後に毎朝、離れた学校に通う長男を送り農作業に戻ります。
黒澤亜希さん 「昔、私もおじいちゃん(父親の善広さん)に軽トラックで迎えに来てもらったりしてたんですけど、めちゃくちゃ汚いまま泥が着いたまま迎えに行ったりとかいつもなので」
黒澤家は3代続く農家です。2代目の父親、善広さんは40年以上米作りに携わってきましたが、6年前に農作業の重労働により肩の腱を切るけがをしました。
黒澤亜希さん「肩の腱が切れたまま稲刈りをしました。それで刈り取りが終わったタイミングですぐ入院なので、やっぱり限界だなって親を見て思いましたね」
父親のけがをきっかけに33歳で農業の道に進んだ亜希さん、継いだ当初は30ヘクタールだった農地が今では50ヘクタール以上に拡大しました。米農家の高齢化が理由です。
2年前から亜希さんに田んぼを委託した佐藤さん夫妻は14代続く農家で、40年以上米作りを続けて来ました。
佐藤礼子さん「お父さんが病気しちゃったから、もう無理だなと思ってね。代々の土地だし田んぼだし、荒らしたくないっていうことが一番。この辺の人たちも年取ってやりたくてもやれなくなる。後継者がいれば何とかやれるんだけど」
佐藤博さん「30年も40年もやってきたんだけども、歳と病気には勝てなかったね」
米農家の平均年齢は全国で71.1歳です。米農家の数も2000年には約174万戸でしたが、2020年には約70万戸と20年で6割ほど減っています。高齢化と農家の減少の影響で、この地域では耕作放棄地も増えています。1年放置するだけでも田んぼは荒れてしまいます。
黒澤亜希さん「またここを田んぼに直すということもものすごく大変な作業ですし、ここまで来る道のりも険しいのでここでまた田んぼというのは不可能ですよね」
父親の黒澤善広さん「高齢化でやる人がいない。大規模化って国では言ってますけど」
黒澤亜希さん「整備ありきだからね」
父親の黒澤善広さん「山手の方でいくら田んぼだけ大きくしても水が来ないと」
農家を継いで4年目の亜希さんは、大きな決断をしました。
黒澤亜希さん「食べチョクの販売サイトが完成しました。これが予約のページですね」
これまではSNSで独自に販売していましたが、ECサイトの活用を決めました。SNSでは注文が殺到するとエラーが出て対応しきれないことがありましたが、ECサイトにすることで、より多くの注文を効率良く受けることが可能になるということです。
在庫を長く抱えて少しでも多くのお客さんに届けられるように、大型の冷蔵庫も購入しました。
黒澤亜希さん「やりとりはめちゃくちゃ大変なんですよ、処理とかも大変ですし発送も大変だなと思うことがたくさんあって、毎回課題だらけではあるんですけど、それでもやっぱりやめない理由っていうのは、お客さんの声を聞きたいっていうのが一番の理由になるので、やっぱりこういう設備に投資してまで私はやりたいなと」
父親の黒沢善広さん「娘が頭を使って行動で開拓してくれているので、私が考えている以上の未来の構想が見えてきている」
黒澤亜希さん「本当に色々な政府の影響を受けるなっていうのはつくづく思っていて、お米というものは本当にお金にもなるし国の力にもなりますし。お米の大切さをやっぱり日本全部で勉強する時期なのかなと」