サラリーマンを辞め地元の宮城県南三陸町に戻ってカキ漁師になった男性が、前職で培った経験を生かし地元のカキの魅力を世界へ届けようと挑んでいます。
南三陸町戸倉の漁師、阿部和也さん(40)は6年前、地元に戻って家業のカキ養殖を継ぎました。
阿部和也さん「生産した物に直でフィードバックをもらえることはすごいことだと、前職があって気づけた」
大学卒業後は東京や仙台で10年以上、広告会社に勤務し営業や企画を担当していました。
阿部和也さん「やりがいや充実感はあったけど自分の時間が作れなくて。妻が、海が好きなら漁師をやってみたらと」
会社を辞め30代で漁師になり、船が苦手で船酔いが心配でしたが慣れない漁を必死に覚えていきました。
阿部和也さん「30歳を過ぎてから漁師になったので、地元の若い漁師と比べたら仕事もできないし劣等感があった」
自分の経験を生かせないか、と模索する中で地元のブランドカキに新たな可能性を見いだします。東日本大震災の津波でカキの養殖棚が流され壊滅的な被害を受けた戸倉地区では、震災後に過密だった養殖棚を3分の1に削減する改革を進めていました。カキに栄養が行き渡るようになり、2年から3年かかっていた養殖期間は1年に短縮されて大きくおいしい、戸倉っこかきとしてブランドを確立しました。
しかし、生で味わえるのは4日ほどで、その魅力は地元以外では十分に知られていませんでした。
阿部和也さん「南三陸のカキにもっと付加価値がついていいと思っている。前職の経験を生かして、自分で商品作りやブランディングをすることに行きついた」
阿部さんは2024年、フィッシャーマンズキッチンというブランドを立ち上げ、加工品作りに乗り出します。レシピは地元の同級生で、料理人兼漁師の佐藤将人さんと練り上げました。
佐藤将人さん「一緒に水産業界を盛り上げたい、地元を盛り上げたいという気持ちで活動している」
約1年かけて開発を進め、カキのうまみを凝縮したソースや素材の味を楽しめる酒蒸しなどを商品化しました。海産物が苦手な人などにも味わってほしいと、地元の商店街やインターネットなど販路を広げています。
「普通のオイスターソースではなくて、酒蒸ししたカキを丸ごとピューレしています」
養殖から商品開発にパッケージデザインからPRまで、新たな方法でカキの魅力を発信しています。
さんさん市場佐藤暁江さん「観光客の方が多く、お土産に買っている印象ですね。南三陸のおいしいカキを全国に広める、強力なきっかけになると思います」
年に一度開催され全国1000以上の生産者が自慢の絶品を競い合う、にっぽんの宝物グランプリは受賞をきっかけに全国や海外へ販路を広げた事業者も多く、注目の大会です。
阿部さんの商品は素材進化部門で準グランプリに輝き、シンガポールで開催される世界大会への切符を手にしました。
世界大会の3週間前、阿部さんは商品の進化を求め七ヶ浜町のレストランに出向きました。ノリを使ったレストランを営む久保田靖朗さんに協力を求めるためです。戸倉っこかきと七ヶ浜産のノリがタッグを組み、新たな絶品を産み出します。
阿部和也さん「最後カキのうまみというか臭みが、感じられた。これと比べると最後カキの味がする」
30種類以上のソースを試作すこと4時間で、渾身の1皿が完成しました。
阿部和也さん「仲間と一緒に世界に出るチャンスをいただいたので、これをきっかけに果敢にチャレンジして、次の世代につながる一手になれば」
7月29日、シンガポールで開催された世界大会は、有名ホテルの総支配人やレストランシェフなどが審査員を務め5組の商品から世界一を決めます。阿部さんも商品に込めた思いを英語で伝えました。
審査員の評価は上々で満場一致で見事グランプリを受賞、商品の味だけではなくブランドストーリーも高く評価されました。
阿部和也さん「小さな小さな漁師町の一漁師の私が、世界に田舎の生産物こだわって作った戸倉っこかきを持ってくることができて、皆さんに評価されて何よりもうれしいし、証明できてうれしい」
サラリーマンからカキ漁師に転身し、自分の武器でカキの魅力を発信する阿部さんは、新しい漁師の姿を追い求めていきます。
阿部和也さん「自分の今までの経験を生かして、種の採苗から食卓までというのが私の強みと思っている。漁師の仕事はもちろん直接客に届けるスタイルも含めて、新しい漁師の選択肢も含めて構造的なものを確立していきたいなと思います」