脳死と判定された人からの臓器移植を可能とする臓器移植法が施行されて25年が経ちましたが、国内の臓器移植は諸外国と比べても格段に少ないのが現状です。8年前、心臓移植を待っていた娘が脳死の状態となり、臓器を提供する決断をした男性に当時の胸の内を聞きました。

 岐阜県で柔術スタジオを運営する白木大輔さん(42)。8年前、重い心臓病を患っていた長女の優希ちゃんを亡くしました。
 白木大輔さん「名前の通り優しい子でしたね。周りに気を遣うというかそういうところもあったりする子でしたね」

 元気いっぱいで優しい子だった優希ちゃん。異変が起きたのは、4歳の時でした。
 白木大輔さん「最初は夜におう吐するみたいな症状があって、風邪かなぐらいの感じだったんですよ」

 次第に顔がひどくむくみ病院に連れて行ったところ、心臓の筋肉が薄くなりポンプ機能が低下する拡張型心筋症と診断されました。
 白木大輔さん「平穏な日から突然、えっていうふうに準備すらしていなかったので、恐怖がありましたね」

臓器移植を待つ

 優希ちゃんは薬で心臓の負担を減らす治療を始めましたが、助かる道は心臓移植しかないと告げられます。
 白木大輔さん「そこしか選択肢がないので、親としてはやっぱり子どもに生きてほしいっていうのが大前提であるので」

 補助人工心臓で命をつなぎながら、移植を待つ日々が始まりました。白木さんは、SNSに優希ちゃんの闘病の様子や自身の胸の内をつづるようになります。
 白木さんのフェイスブックより
 「補助人工心臓の挿入部の出血を止める手術。胸を開くのはこれで3回目。自分の子ながら本当に頑張っている」

 国内で脳死下の臓器提供が行われるようになったのは、臓器移植法が施行された1997年。2010年に改正臓器移植法が施行され、15歳未満の子どもでも家族の承諾があれば臓器提供が可能になりました。
 しかし、当時国内での子どもの臓器移植は年に1件あるかないか。家族は海外での移植に望みを託し、準備を進めました。
 白木さんのフェイスブックより
 「受け入れ先より正式に受け入れることが決まる」
 「優希の目から生きたいという気持ちが痛いほど伝わってきた。とにかく前進するしかない」

 しかし、入院から3カ月後。優希ちゃんの容体が急変。補助人工心臓の中でできた血栓が脳の血管に詰まり、脳梗塞を起こしたのです。
 医師からは脳の機能の4分の3が失われ、これ以上の治療はできないと告げられました。
 白木さんフェイスブックより
 「先生は言わなかったけど、ほぼ脳死ということだと分かった。とめどなく涙が流れた。沢山の思い出が楽しかった思い出が後押しするように泣いた」

 深い悲しみの中、白木さんは大きな決断をします。
 白木さんフェイスブックより
 「先生に優希の臓器を優希のように臓器を待っている子供たちの為に使ってもらえないかとお願いをした」

臓器提供を決断

 白木大輔さん「迷いは無かったですね。僕らはずっと(臓器が)欲しい側にいたわけじゃないですか。じゃあいざそういう(脳死の)状態になった時に、それ(臓器提供)ができないのもおかしいなっていうのも思ったんですよね」

 その後、医師による2回の脳死判定が行われました。家族は、優希ちゃんの手形や足形を取ったり体をきれいに洗ったりして、残されたわずかな時間を一緒に過ごしました。
 そして、優希ちゃんの体から肺などが摘出され、病気で移植を待っていた人たちに提供されました。
 白木大輔さん「娘の一部だったものが他の人の体で生き続けるっていうのはちょっとおこがましいけど、役に立てるっていうのであれば。きっと娘も望むだろうなって思ったんですよね。子どもを愛しているからこそ、その選択を選んだのかなっていう部分はあります」

 移植を待つ側と臓器を提供する側。つなぐ、命。両方を経験した白木さんが今、伝えたいことは。
 白木大輔さん「移植医療っていうのは温かい医療だと思うので、そういう部分が皆さんに伝わってもらうのが一番かなと思いますね」

 日本の100万人当たりの臓器提供数は0.62とアメリカの68分の1、韓国と比べても14分の1と少ないのが現状です。
 日本で臓器移植を待つ人は4月末時点で1万5517人、心臓に限っては884人います。
 一方、2022年に行われた移植は455件、心臓は79件と、待機人数に対し提供される臓器が圧倒的に少ない状況が続いています。

 子どもの移植は更に少なく、小児からの臓器提供が可能になった2010年から2022年までの13年間で6歳未満からの臓器提供は25件しかありません。
 内閣府が2021年に実施した移植医療に関する調査では、約1700人の回答者のうち臓器移植に関心が「ある」と答えた人は65.5%、自分が脳死や心停止になった場合に臓器の提供を「したい」と答えた人は39.5%でした。
 一方で、健康保険証などで意思表示をしたり、家族や親しい人に伝えたりしている人は10%程度にとどまっています。