脳死と判定された人からの臓器移植を可能とする臓器移植法が施行されて25年が経ちましたが、国内の臓器移植は諸外国と比べても格段に少ないのが現状です。海外に渡航して移植を目指すケースも少なくない中、心臓移植を約3年半国内で待ち続けている男の子がいます。

 京都府出身の中園瑛心さん、13歳。重い心臓病を抱え、大阪府の国立循環器病研究センターで心臓移植を待っています。
 中園瑛心さん「好きな事は、習い事とかでそろばんをやっていたりしたんですけど、それも心不全が出ていったん中断になってしまったというわけです。多分(腕が)鈍っていると思います」

 心臓の動きを助ける補助人工心臓の駆動装置に、2メートルほどの管でつながれての生活。待期期間は6月で3年半になりました。
 中園瑛心さん「(入院生活は)やっぱり大変だと思います。友達と外で鬼ごっことかして遊びたいです」

 体を動かすのが好きで、元気に学校に通っていた瑛心さん。母親のみどりさんが異変に気付いたのは瑛心さんが9歳、小学3年生の時でした。
 母親中園みどりさん「お腹がすごいパンパンに膨れてきて、子どもがこんなにビール腹みたいになるのかなって思って、おかしいよねってなって」

 病院で診断されたのは、心臓の筋肉が薄くなりポンプ機能が低下する拡張型心筋症。助かる道は心臓移植しかないと告げられました。
 母親中園みどりさん「そんなのドラマで言われるような話だったし、でも置かれている状況が、あ、そうなんだなあって、受け入れるしかないっていう感じですよね」

国内で心臓移植を待つ

 日本の100万人当たりの臓器提供数は0.62とアメリカの68分の1、韓国と比べても14分の1と少なく、海外での移植に望みを託す患者も少なくありません。
 他に2人の兄弟がいることもあり、瑛心さんの両親は国内での移植を選択。瑛心さんは2019年12月に補助人工心臓を装着し、命をつなぎながら移植を待つ日々が始まりました。
 母親中園みどりさん「瑛心が病気が発覚したタイミングって、ようやくドナーさんもたくさん出てご縁があるような世の中の流れになっていて、病院側も1年から1年半ぐらい待てばうまくいけばいけるかもしれないとお話をいただいた」

 15歳未満の子どもからの臓器提供を可能にした2010年の改正臓器移植法施行を機に、国内における小児の心臓移植は徐々に増加。瑛心さんが待機を始めた2019年には17件ありました。
 しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で医療現場がひっ迫したことなどから、2020年、2021年は5件と大幅に減少しました。

 感染対策のため、京都の自宅から毎日通う家族との面会が制限され、瑛心さんは大きな不安と寂しさを抱えながらの入院生活を強いられました。
 中園瑛心さん「最初、緊急事態宣言が出た時に面会禁止になって、その時はちょっと正直悲しかったけど、だけどこれが当たり前の生活だったから、だから大丈夫でした」

熱心に勉強

 2023年の春に中学生になった瑛心さん。勉強にも熱心に取り組んでいます。入院中は支援学校から教師が訪れ、週3回、1回2時間授業を受けています。
 しかし、学習機会の確保は学童期ならではの課題だとみどりさんは話します。
 母親中園みどりさん「(学校に)戻ってクラスで(みんなと)同じようにできるかなっていうところは、一番の心配ではあります」

 入院生活の長期化は、子どもたちの心理的な成長や発達にも大きな影響を及ぼすと瑛心さんの主治医は指摘します。
 主治医・国立循環器病研究センター小児循環器内科坂口平馬医長「入院生活が長いと対人スキルが乏しいというか、同じ年代の子とやりとりをするスキルがなかなか着いていかないんですよね。子どもたちの社会復帰した後の生活をスムーズにつなげていけるような準備を、病態が落ち着いていればどんどんやっていかなきゃいけないと僕自身は思っています」

懸命に生きる

 補助人工心臓の装着による脳梗塞や感染症のリスクと常に隣り合わせの状態ですが、体調が安定している時は移植手術に必要な体力づくりにも励んでいる瑛心さん。
 いつ訪れるか分からない「その日」を待ち、希望をつむぎながら1日1日を懸命に生きています。
 中園瑛心さん「移植して家に帰って学校に行ったりしてみんなと勉強したい。やっぱり家族で一緒にご飯食べたりとかしたいです」
 母親中園みどりさん「ご縁があって命をつないでいただけたらありがたいなっていう、ただただその気持ちですよね、自分たちではどうにもできないので。でも本人は生きることを諦めていないので、であればそこをひたすら待つしかない」

 主治医の坂口医師によると、心臓移植の数は新型コロナの影響で一度落ち込んだものの、2022年の夏ごろから再び増え始めているので、この流れに乗って増えていくことを期待したいと話していました。
 国内のドナーが増えない理由として、脳死状態から臓器提供につながらない事案が多いとした上で、例えば脳死患者が出た際の病院間の連絡系統など、本人や家族の意思を提供につなげるようなシステムを構築することが必要ではないかと話していました。