広場を埋め尽くす、イランへの空爆で殺害された軍幹部らの死を弔う数十万人の市民です。アメリカ軍による空爆で、イランとイスラエルは一旦、停戦に至ったわけですが、トランプ大統領がルールを無視して行った「力による現状変更」が世界に、そして日本にどんな影響をもたらすのか、専門家に聞きました。
■イラン空爆で殺害葬儀に数十万人
「アメリカに死を アメリカに死を」 停戦6日目の28日、イランの首都テヘラン。 (CNNフレデリック・プライトゲン記者)「現在、合計60の棺が街を通過しています。その中には、イラン軍の最高位の指導層も含まれています。民間人も女性や子どもたちの棺も行列の中にあります。」 イスラエル軍の攻撃で殺害された軍のバゲリ参謀総長や革命防衛隊トップのサラミ司令官、核科学者ら60人の国葬が行われました。 (革命指導者ホメイニ師のひ孫)「戦争が起きないことを望むが(停戦を)守らなければ厳しい被害を受けるだろう。」 「血に飢えたトランプに何者でもないと分からせてやる」 「トランプにくたばれと言いたい。我々が殉教者の血の復讐によって、アメリカとイスラエルを消滅させると覚えておけ」
■トランプ氏イランに“再攻撃”か
最高指導者ハメネイ師は、停戦後、初めての演説で「アメリカに勝利した」と語りました。 (イラン最高指導者ハメネイ師)「イランの打撃でイスラエル政権はおおむね破壊され踏みつぶされた。(アメリカは)イスラエルを救うために参戦したが何も得られなかった」 この発言に反発したトランプ大統領は、検討していたイランへの制裁解除を中止したと投稿。 (トランプ大統領のSNS)「彼は自分の発言がウソだと知りながら、なぜ愚かにも“勝利した”などと言うのか。制裁解除に向けたすべての作業をすぐにやめた」 自らが停戦を仲介したと強調していたにもかかわらず、イランの核施設へのさらなる攻撃にも言及しています。 Q.懸念される水準までウランを濃縮していた場合、再び攻撃を検討しますか? (トランプ大統領)「もちろんだ、それは間違いない」 「イランと来週協議するだろう」と語っていたトランプ大統領。しかし、イランのアラグチ外相は協議に応じるかは「イラン側の利益次第」だとしています。 (イランアラグチ外相)「協議再開について合意も約束もしていない。議論すらしていない」
■NATO防衛費「5%」へ空爆称賛も
本当に核開発を止めることができるのでしょうか? (トランプ大統領)「核施設の内部は全壊したんだ。崩れ落ちたから誰も確認に行けない」 核施設への攻撃を、広島と長崎への原爆投下を引き合いに正当化したトランプ大統領。 (トランプ大統領)「あの一撃が戦争を終わらせたんだ。広島や長崎の例えは使いたくないが本質的には同じことだ。あの戦争が終わったように、今回も終わらせたんだ」 NATO=北大西洋条約機構は、トランプ大統領の要求に応じる形で、加盟各国が国防費をGDPの5%にまで大幅に引き上げることで合意しました。 この首脳会議の直前、NATOのルッテ事務総長からトランプ大統領に送られたメッセージには… (NATOルッテ事務総長)「親愛なるドナルド。イランへの断固たる行動に感謝します。おかげで我々全員がより安全になりました」と称賛していて、AP通信は「媚びへつらっているようだ」と指摘しています。
■空爆は成功?核開発“温存”の指摘も
(ヘグセス国防長官)「トランプ大統領が戦争終結の条件を整えた。イランの核開発能力を壊滅させた」 ヘグセス国防長官は会見で、「核開発を数カ月遅らせる程度しか破壊できていない」などとする報道に反論。 今回の攻撃で使用したバンカーバスターの実験映像を公開して、その威力をアピールしましたが、トランプ大統領が主張する「完全に破壊された」証拠は示していません。 一方のイランでは… (CNNフレデリック・プライトゲン記者)「ここは聖なる都市コムにあるマアスーメ廟です。イランで2番目に神聖な場所です」 停戦後のイランを取材しているCNNの記者が話を聞くと… 「(トランプ大統領は)もし本当に一般市民のことを考えているなら、他国に介入せず、そっとしておいてほしい」 「爆撃、殺害、テロによって我々の選択した道を妨げようとしている」 「神は偉大なり、ハメネイは最高指導者なり」 (デモ参加者)「彼らの覇権を覆す。アメリカとイスラエルの口にパンチをお見舞いしてやる」 イランではこれまで以上に“反米感情”が高まっているといいます。 (CNNフレデリック・プライトゲン記者)「イランの指導者は核に関する知識は残っている。核開発は必ず復活する。今でも存在すると言っています」
■衛星画像に掘削機“濃縮ウラン”移送か
CNNによればフォルドゥの核施設で“新たな動き”が… バンカーバスターでできた大きな穴の近くに爆撃直後にはなかった掘削機が映っています。土砂を撤去する作業が行われているのか、複数の車両の姿も確認できます。 IAEA=国際原子力機関のグロッシ事務局長は、「数カ月もすれば一部の遠心分離機が再稼働し、濃縮ウランを生産するようになるだろう。すべてが消滅し何も残っていないと主張することは不可能」だと述べています。
■空爆で「イラン核開発のリスク増大」
核軍縮を目指すアメリカのシンクタンクは、今回の攻撃でイランの核開発の阻止がこれまで以上に困難になったと指摘します。 (米軍備管理協会ダリル・キンボール会長)「トランプ大統領の軍事攻撃に参加するという決定は、長期的にはイランが核兵器を追い求めるリスクを増大させると考えています。これでイランの核の知識が排除されたわけでなく、残されたウランが濃縮される可能性は残っています」 イランは空爆を受ける前、さらに濃縮すれば核爆弾9発分に相当する高濃縮ウラン400キロを保有していましたが、ロイター通信はイラン高官筋の話として「大部分がアメリカの攻撃前に非公開の場所に移送された」と伝えています。 (米軍備管理協会ダリル・キンボール会長)「彼は2歩先、3歩先のことを考えていません。かなり思いつきで決断を下します。このようなやり方は非常に悪い決断を招くことになります。イランや他の国の将来の指導者たちは、自分が核兵器を持っていなければ、大国から攻撃を受けると考えるようになるかもしれません」
6月29日『有働Times』より
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