総裁選前倒しの有無が決まる前日、苦渋の決断です。石破総理大臣が会見を開き、辞任の意向を発表しました。「まだやり遂げるべきことがある」と述べた石破総理。ギリギリまで続投の意思を示しながら、正反対の判断を下した、その裏では何が起きていたのでしょうか。

■石破総理 辞任表明「新総裁に託す」

(石破茂総理大臣)「この度私は自由民主党総裁の職を辞することといたしました。そのため、党則第6条第2項に基づく総裁選、すなわち任期中に総裁が欠けた場合の、臨時総裁選の手続きを実施するよう、森山幹事長に伝えたところであります。新総裁を選ぶ手続きを開始していただきたい、このように考えております。」 「まさに国難ともいうべき米国関税措置に関する交渉は、私どもの政権の責任において、道筋をつける必要があるとこのように強く考えてまいりましたが、先週の金曜日に、投資に関する日米了解覚書の署名が行われ、米国大統領令も発出をされました。昨日帰国した赤沢大臣から、直接報告を受け、私としても1つの区切りがついたと感じることができました。」 「かねてより私は地位に恋々とするものではないと、やるべきことをなした後に、しかるべきタイミングで決断すると、このように申し上げてまいりました。あわせまして、選挙結果に対する責任は、総裁たる私にある。このようにも申し上げてきたところであります。米国関税措置に関する交渉に1つの区切りがついた今こそが、そのしかるべきタイミングである、このように考え、後進に道を譲る決断をいたしました。」 「新しい総裁が選ばれるまでの間、国民の皆様方に対して、果たすべき責任を着実に果たし、新しい総裁総理、その先を託したいと思っております。」

この1年で成し遂げたこと、そして、やり残したことを語りました。

■“政治とカネ”問題「最大の心残り」

(石破茂総理大臣) 「政治とカネの問題をはじめ、国民の皆様方の政治に対する不信を払拭することはいまだにできておりません。このことは私にとって最大の心残りであります。わが自由民主党はけじめをつけなければなりません。わが自民党は、今さえよければいいとか、自分さえよければいいとか、そのような政党であっては決してなりません。寛容と包摂を旨とする保守政党であり、真の国民政党であらねばなりません。」 「われわれ自民党が信頼を失うことになれば、日本の政治が安易なポピュリズムに堕することになってしまうのではないかと、その危惧を私は強めております。私としては、まだやり遂げなければならないことがあるという思いもあるなか、身を退くという苦渋の決断をいたしました。それは、このまま党則第6条第4項に基づく臨時総裁選要求の意思確認に進んでは、党内に決定的な分断を生みかねないと考えたからであり、それは決して私の本意とするところではございません。自民党の皆様にはその思いを共有していただき、ともにこの難局を乗り越えていただきたい、心から強く願っております。」 「古い自民党のままである。何も変わっていない。国民の皆様方から見られるようであっては党の明日はございません。真の意味での解党的な出直しを成し遂げなければなりません。本日この場をその1歩とすることができますよう、党員党友の皆様方のお力を賜りますよう心よりお願いを申し上げます。」 「国民の皆様方には、このような形で職を辞することになったこと、大変申し訳なく思っております。本当に申し訳ございません。残された期間、全身全霊で国民の皆様方が求めておられる課題に、取り組んでまいりますので、何卒ご理解を賜りますよう、心よりお願いを申し上げます。私からは以上であります。ありがとうございました。」

やり残したことがある中、自ら身を引くことは「苦渋の決断」だったと語った石破総理。 一方、石破総理はおととい5日、物価高への追加の経済対策を「この秋に策定」すると述べるなど、続投への意欲をにじませていました。この週末、何があったのでしょうか?

■“辞任前夜”菅氏&小泉氏と会談

石破総理への事実上の退陣勧告となる自民党総裁選の前倒し。自民党は8日、前倒しを求める議員に署名の提出を求めていて、都道府県連の代表者と合わせて過半数の172人を超えるかどうかが焦点でした。 ANNの取材では、国会議員は「賛成」が120人を超え、「反対」は約50人に留まっていて、全体では「賛成」が4割を超えていました。 前倒しを求める議員の下には、最近まで総理側近などから説得の電話がかかってきていたといいます。 (神田潤一 法務大臣政務官)「同期のところに直接電話がかかってきて、『総理は辞意を表明されている、いずれ辞めるというふうにおっしゃっているので、もう前倒しを求めなくても良いのではないか』というような形で説得をされたという話は聞いています」 そんな中、きのう6日の午後8時半ごろ。総理公邸に小泉農水大臣と菅元総理を乗せたとみられる車が入りました。その約30分後… (佐々木一真記者)「午後9時です。菅元総理を乗せた車が総理公邸から出てきました。」 まず公邸から出てきたのは菅元総理。そして、その1時間半後… (佐々木一真記者)「午後10時半です。小泉大臣を乗せた車が公邸から出てきました。石破総理との協議は夜遅くまで及びました。」 石破総理は小泉大臣と菅元総理と30分会談。そして菅元総理が帰った後も、小泉大臣と1時間半にわたり会談しました。 関係者によると、小泉大臣と菅元総理は、石破総理に対し、月曜に迫った総裁選前倒しの署名提出の前に、進退について自ら判断するよう説得したといいます。

■菅氏“4年前の辞任”石破総理に語る

こうした状況は4年前、当時の菅総理が総裁選不出馬を表明した時を思い起こさせます。 (菅義偉 総理大臣(当時))「先ほど開かれた自民党役員会において、私自身、新型コロナ対策に専任したい。そういう思いの中で、自民党総裁選には出馬しない、こうしたことを申し上げた。」 小泉氏は連日官邸を訪れ、出馬の取り止めを進言していました。 (小泉進次郎 環境大臣(当時))「現職の総理総裁が、総裁選に突っ込んで、ボロボロになってしまったら、やってきた良いことすら正当な評価が得られない環境に総理をおいてしまうんじゃないか。息子みたいな年の私に、(身を)引くという選択肢も含めて話をする私に対して、常に時間を作ってくれて、感謝しかないですね。いっぱい思い出すとね、言葉が浮かんできますけど」 くしくも、その菅元総理と共に石破総理と面会した小泉大臣。菅元総理は、4年前に自分が辞任した経緯などを石破総理に話したといいます。また小泉大臣は、「党を割ってはいけない。前倒し賛否の投票をすることになれば自民党が本当に割れてしまう」と説得したといいます。

■石破総理「どうしたらよかったのか」

Q.新総裁を選ぶ総裁選には出馬しない? 「総裁選挙には出馬は致しません。それは申し上げておきます。」 (テレビ朝日 千々岩森生記者)「きのうの夜、菅元総理と小泉農水大臣が公邸に入られて、内容としては8日を前に進退の判断を説得されたというふうに聞いていますが、これがどれほど影響があったのか。もし影響があったとすれば、どのような言葉が具体的に響いたか教えてください。」 (石破茂総理大臣) 「菅副総裁、小泉農水大臣との会話の内容は、ここでお話をすべきことだとは思っておりません。政治家同士の話をペラペラしゃべる、そういうことは断じていたしません。しかし、副総裁から、党の亀裂は避けるべきであると、党の分断ということはあってはならないということは、歴代総理総裁経験者の皆さま方とお話をした時から、非常に強く副総裁がおっしゃっていたところでございます。多くの方からご意見を承る中にあって、私どもの政権というのは菅元総理の色々なお知恵、お力によるところが大きかったと考えております。小泉農水大臣はそこで多くを発言されたわけではございません。ただ私も小泉さんが初当選した、私は当時政調会長でしたが、政調会長、幹事長、地方創生大臣を務めていくうえにおいて、あるいは内閣総理大臣と農水大臣という関係において、いろんな議論を戦わせてまいりました。そこにおいてもちろん彼がきのう積極的に発言したわけではありませんが、いろんな発言は示唆もあったということに尽きます。」

Q.もっと早くやめていたら良かったのではという考えは?また、50日間にわたる間、政治が止まったことでむしろ政治空白が生まれてしまったのでは? 「いろんなご批判はあると思います。私はこの間、いかにしてこの関税交渉、これは参議院選挙が終わった時に、この見通しが確たるものが立っておったわけではございません。これに一定の道筋をつけるということに政権として本当に力を注いでまいりました。私はここにおいて政治空白があったとは考えておりません。」

Q.参院選後に総理退陣を求める声が高まる一方で各種世論調査では内閣支持率が上昇したが、これをどう受け止めているのか? 「今までにないことが起こっているということは一体何だったのかということを私自身ずいぶんと考えてまいりました。それは私に対するご評価をいただいているというよりも、きちんと仕事してくれということではなかったかと思っています。それは党内でいろんな争いをするよりも、きちんと仕事してくれと、国家国民に対して仕事をしてくれというような強い意志の表れではなかったかと思います。あるいは“石破やめるな”というようないろんな動きもございました。ありがたいことでございました。それは私自身、どうしたら自分の言葉で語ることができるか、どうしたら人に分かってもらえるか、それは“石破構文”なぞと言って揶揄もされましたが、でもどうか分かってくださいということ、そのことに努めたことがご評価をいただいたのかもしれません。」

そして会見ではこう悔しさもにじませました。

(石破茂総理大臣) 「“石破なら変えてくれる”と、“石破らしくやってくれ”という、強いご期待で総裁になったと思っています。しかし、少数与党ということで、あるいは党内において、大きな勢力を持っているわけではございません。そしてほんとに多くの方々に配慮しながら、融和に努めながら、誠心誠意努めてきたことが、結果として“らしさ”を失うことになったという、一種の、何て言ったらいいんでしょう、どうしたらよかったのかなという思いはございます。しかし色々な制約の中で、縷々申し述べてきましたように、やるべきことは私自身、本当にこれ以上はできなかったというほどにできたというふうに思います。」

9月7日『有働Times』より