宮城県が2024年度から始めている県産品のメキシコ輸出事業は、1年目の水産品から一転2025年度は日本酒を売り込みます。宮城ブランドの新たな挑戦です。

 東日本大震災の津波で甚大な被害を受けた石巻市桃浦地区は、民間企業にも漁業権を与える水産業復興特区として復興を果たした宮城県有数の養殖カキの産地です。しかし、中国や香港では福島第一原発の事故や処理水の海洋放出に伴い、宮城県など10都県の水産物に対し、現在も禁輸措置が取られています。
 宮城県国際ビジネス推進室佐藤博美室長補佐「2023年度に香港の水産物輸入が止まったので、その代替販路というところでまずは水産物を取り組みたいというところですね」

 そこで販路拡大を目指し、2024年度から新たな輸出事業が始まりました。県が主導し国内外の卸売業者や生産者が一体となって取り組む大規模な事業です。
 ターゲットは、日本食レストランの数で世界第5位を誇りブーム真っ只中のメキシコです。最初の輸出品目として打ち出されたのは、桃浦のカキでした。

2024年度は水産物を輸出

 メキシコは震災や原発事故による風評被害が少なく、カキの生食文化も根付いています。1月、PRのチャレンジとして行われた宮城フェアでの試食会で、桃浦のカキは高い評価を受けました。
 「メキシコで食べる物と比べると、もっと味があってフレッシュな感じがする」「カキフライが一番レストランのメニューとして出せそうなメニューだと感じた」

 イベントの後、現地の日本食レストランなどから早速注文があり、8月に桃浦の冷凍カキ400キロが輸出されました。海水温上昇の影響などで1カ月ほど出荷は遅れたものの、品質は上々とのことです。

 8月には輸出に合わせて桃浦にはメキシコで83の拠点を持つ日本食スーパー、Toyofoodsのバイヤーが視察に訪れました。メキシコのカキと比べ、大きさや濃厚な味が評判の桃浦のカキ。バイヤーも、業務用など今後の輸出増加に期待とやる気を募らせます。
 Toyofoods川上昌紀水産品バイヤー「評価はすごく良かったです。日本のカキは全然メキシコ国内で流通していなくて、メキシコで食べる物とは味だったり大きさだったり違うよという反応だったんで。宮城のカキをこれから販売用に広げることに注力していきたいと思っています」

 軌道に乗り始めたメキシコへの輸出支援事業は2年目となる今年度、新たに日本酒の輸出に乗り出します。1月の宮城フェアで試しに提供したところ反応が良く、本格的に取り組むことになりました。

 8月初旬。桃浦のカキの時とは別のバイヤーが、宮城県大崎市にある一ノ蔵を訪れました。仙台国税局がまとめたデータによると、宮城県の清酒の販売量はほぼ右肩下がりで、2023年度は約9000キロリットルと、20年前の半分程度となっています。

2025年度は日本酒を輸出

 背景には若い世代の日本酒離れが挙げられ、国内市場が縮小傾向にある今、海外の市場が注目されています。一ノ蔵では現在アメリカなど25カ国を相手に輸出を行っていますが、メキシコといった中南米は未開拓です。

 見学の後には試飲も行われ、厳選された9種類が提案されました。ラインナップは、伝統的な清酒から若者に人気なアルコール度数の低いものまで様々です。
 試飲で特に注目されたのは、スパークリング日本酒のすず音シリーズです。元は若い世代向けに打ち出されたアルコール度数5%の飲みやすい日本酒で、フルーティな香りとさわやかな甘さが特徴です。

 酸味や辛みのあるメキシコ料理ともぴったりで、食前酒にも向いているということです。宮城県ではEU向けに、県の地酒それぞれに含まれるグルコースやアミノ酸などの成分を分析し、その結果から導いた相性の良い洋食の組み合わせ=ペアリングを、ミヤギスタイルとして紹介しています。

新たな可能性

 最近では米価の高騰に伴う日本酒の価格上昇も懸念されますが、既に輸出が進んでいる中国などでは銘柄へのこだわりが強いため、多少の価格の変化では需要に影響しないということです。そのため、日本酒と世界の料理のペアリングという新たな可能性を模索し続けることが欠かせません。
 Toyofoods堤航太営業コーディネーター「1番大切なのは、やはり日本食レストランさんだけじゃなくて現地のメキシコ料理店ですとか現地系のレストランさんに販売提案できるような日本酒。メキシコの方はまだ東京とか京都とかしか知らないので、東北という方に目を向けていただけたら非常にいいんじゃないかな」

 宮城フェアまで残り3カ月。宮城側の卸し担当者のメキシコ視察も終わり、綿密な打ち合わせが重ねられています。
 初年度はメキシコ第2の都市グアダラハラのみだった宮城フェアですが、2年目は首都メキシコシティでも開催され規模は更に大きくなります。
 宮城県国際ビジネス推進室佐藤博美室長補佐「大詰めと言うにはまだ早いですね。最終的には、ビジネスとして成り立っていくところの最初のお手伝いをするというスタンスで県はいる。初年度から発注にもつながっているので、そこをもっと広げていきながら宮城県産品輸出に繋がればなと思います」