福島第一原発の事故後、宮城県丸森町の一部地域で続いていたタケノコの出荷制限が、2022年3月にすべて解除されました。
 一方で、町内の除染作業で出た廃棄物の処分のめどは立っておらず、原発事故の影響は、いまだ暗い影を落としています。

 行動制限の無い3年ぶりのゴールデンウィーク。丸森町の直売所には、旬のタケノコを求めて県の内外から多くの観光客が訪れました。
 丸森町特産のタケノコ。福島第一原発事故から11年経った2022年3月に、町内全域で出荷が再開しました。

待ちに待った出荷制限の解除

 舘矢間地区のタケノコ農家佐藤尚一さん「ここ10年で最高の幸せの年だね」
 出荷制限が解除された舘矢間地区のタケノコ農家、佐藤尚一さん(72)です。今回のゴールデンウイークは、タケノコの出荷に大忙しでした。
 舘矢間地区のタケノコ農家佐藤尚一さん「生産者としては一番待ち望んできたことなので、最高だね。10年は長かったね」

タケノコの出荷制限解除

 親の代から50年間タケノコ農家を続けてきた尚一さん。春先には毎年1000本以上のタケノコを町内の直売所に出荷していました。
 しかし、原発事故の影響は約65キロ離れた丸森町にも及びました。
 舘矢間地区のタケノコ農家佐藤尚一さん「春先の一番の収入だったね。収入はゼロだね。どこにも卸せないんだからね」

タケノコの収穫 宮城・丸森町

 原発事故の1年後、町内で採れたタケノコから国の基準を超える放射性物質が検出され、町内全域で出荷が制限されました。
 町内にある8つの地区のうち5つの地区では、2018年までに順次、制限は解除。そして、3月に残っていた舘矢間、金山、大張地区で、規制が解除されたのです。
 2022年のタケノコは豊作。尚一さんは、原発事故前と同じ1000本ほどを出荷する見込みです。
 舘矢間地区のタケノコ農家佐藤尚一さん「手入れだけはやったね、ずっとね。そうしないとこういうふうに応えてくれないから。これは少し多すぎるかも知れないけど」

 町内のタケノコはすべて放射性物質の検査が行われ、1キロム当たり100ベクレル以下という国の基準よりも厳しい65ベクレル以下のみ出荷されます。今回解除された3つの地区では、それよりも更に厳しい54ベクレルが基準です。
 2011年以来となる町内全域での出荷再開。タケノコの味を県外の人にも知ってもらいたいと、尚一さんは意気込んでいます。
 舘矢間地区のタケノコ農家佐藤尚一さん「今後ますますタケノコ畑を整備して、より安心して食べられる。タケノコをどんどん生産したい。これから頑張る」

積み残された課題 除染廃棄物

 復興が進む一方で、11年が経過しても積み残された課題もあります。
 佐藤吉市さん「もう勘弁してくれよと。早く国あるいは環境省で判断して、片付けていただければ」
 丸森町の農家、佐藤吉市さん(72)です。町に貸した1500平方メートルの土地には、除染作業で出た土や草木などの廃棄物が置かれたままです。
 町内には仮置き場が25カ所あり、計7万7300立方メートルの除染廃棄物が遮水シートや土のうに覆われて保管されています。

除染廃棄物の仮置き場

 仮置き場25カ所のうち20カ所は民有地で、3年ごとに契約が更新されています。吉市さんも、当初3年間の約束で町に土地を貸しましたが、除染廃棄物の処分方法が決まらないまま11年が経ちました。
 佐藤吉市さん「安心な状態で保管しますからということで、私たちは貸して10年目に入ろうとしている。ほったらかしにされているのかな」

除染廃棄物の処分方法は

 国は、福島県で出た除染廃棄物については、3月までにすべて中間貯蔵施設に移動させました。一方で、宮城や栃木など7つの県では、法律でそれぞれの自治体内での処理を義務付けています。

 こうした中、環境省は除染廃棄物の処理を進めようと、2021年12月から丸森町石羽の仮置き場で実証実験を始めました。実証実験では、土と草木などを分別した後、土だけを埋め立てます。
 空間放射線量や地中の水の放射性物質の濃度などを測定し、安全性を検証します。町は処理の責任は国と東京電力にあり、町外での処理を求めています。
 実証実験については、協力をするものの、町内での処理を認めるわけではないとしています。
 保科郷雄丸森町長「自然災害が多い丸森町なので、どういう状況になるか分からないので、丸森町のような地形の場所に仮置き場があるのは問題があるのではないか」
 佐藤吉市さん「風評被害が丸森はまだまだ仮置き場があるために影響があるではないかと。ぜひ早くしてもらいたいというのが、町民・地権者としての思いです」