脳死と判定された人からの臓器移植を可能とする臓器移植法が施行されて、25年が経ちました。しかし、国内のドナー不足から、海外に渡航して移植を目指すケースが後を絶ちません。アメリカでの移植に望みを託す家族、そして12年前にアメリカで心臓移植を受けた男の子の今です。

 佐藤昭一郎さん「おはよう、葵。だいぶぷっくりしてきたんじゃない更に、あなた」
 次女葵ちゃん「う、うう~」
 佐藤昭一郎さん「体重どれくらいになった?」
 佐藤清香さん「お話してるの」

 東京都に住む佐藤昭一郎さん。埼玉県内の病院に入院している次女で1歳の葵ちゃんは、心臓のポンプ機能が低下し血液を全身に送ることができなくなる、重症心不全を抱えています。
 現在は、補助人工心臓とペースメーカーで命をつないでいますが、脳梗塞や感染症のリスクと常に隣り合わせの状態です。助かる道は心臓移植しかありません。

 佐藤清香さん「あおちゃんを救う会です。1歳の女の子、アメリカに渡って心臓移植が必要です。皆さんの力で生きるチャンスをください」
 葵ちゃんの両親が決断したのはアメリカでの移植。円安の影響もあり、渡航や手術に必要な費用は5億3000万円に上ります。両親の出身校である東北大学の恩師などが「あおちゃんを救う会」を発足し、2022年11月から全国で支援を呼びかけたところ、募金開始から1カ月ほどで目標額に到達。現在は渡航に向け準備を進めています。
 佐藤清香さん「(募金を)始める前よりも勇気づけられて、家族で葵も含めて渡航に向けて頑張っていける気持ちになっている」

渡航しての手術に向けて準備

 海外での移植を希望する患者が後を絶たない背景には、国内の深刻なドナー不足があります。日本の100万人当たりの臓器提供数は0.62とアメリカの68分の1、韓国と比べても14分の1と少ないのが現状です。
 葵ちゃんの担当医埼玉医科大学国際医療センター戸田紘一医師「(国民に)まだ知っていただけていないというところもあると思うんですけど、脳死の状態であると評価してくれる医者だったり、そういったことをしっかりお話できる人が少ないんだと思います。脳死の話をして臓器提供の話を切り出すということは、とてもパワーがいることですし、経験も必要なところだと思うので、多分そういったところがまだまだ足りていないということもあると思います」

日本は深刻なドナー不足

 国内で過去10年間に行われた10歳以下からの臓器提供件数が34件。心臓移植を待っている9歳以下の患者は2022年9月末現在で43人います。
 移植までの平均待機期間は心臓の場合は約3年で、重症化や合併症で待機中に亡くなるケースも少なくありません。

 宮城県に住む横山由宇人さん(18)も海外での臓器移植を経験した一人です。心臓の筋肉が薄くなりポンプ機能が低下する、拡張型心筋症を患い2010年5歳の時にアメリカで心臓移植手術を受けました。
 横山由宇人さん「傷痕がどうしてもくっきり残ってるんですけど、いろんな痕ついてて、そうい傷痕とか見るとそういう(移植を)経験してるんだなっていうのは実感は湧きますね」

海外での臓器移植を経験

 移植後も免疫抑制剤の服用を続けなければならず運動の制限もありますが、移植から12年が経ちました。今は高校3年生。春からは心理学を学ぶため、石巻市の大学に進学することが決まっています。
 横山由宇人さん「(人の)支えになったりとか、その人の思いに寄り添うことができるかもしれないので、相談員になりたいなと思いました。人のために仕事をしたいっていうのが一心でありますね」

 そんな由宇人さんの成長を近くで見守ってきたのが、父親の慎也さんです。
 横山慎也さん「病院で闘病してた時のことを思い出しながら今の姿を見ると、本当ありがたいですよね」
 当時15歳以下の患者は国内で移植を受けることができなかったため、家族は海外での移植に望みを託しました。アメリカでの移植手術に必要な費用1億3500万円を集めるために募金活動を行いました。
 横山慎也さん「やっぱり心苦しさ、自分の息子のためにだけ1億円以上のお金を皆さん募金してくださいっていう世間からの共感を得られるかっていう恐怖とか不安とかありましたし、もう寿命なんだから諦めたら良いじゃんっていう意見もあったり」

 渡米から1カ月ほどでドナーが現れ手術は無事に成功しましたが、同時に海外での移植のリスクの高さを感じたと言います。
 横山慎也さん「気圧の問題とかで、かなり負担かかるんですよね体にね。アメリカの病院に入院するとちょっと体に不具合が起こったりとか、本当ありとあらゆるリスクが高いんです。海外移植っていうのは」

ドナー不足の解消へ

 こうした経験から現在、慎也さんは国内で救える命を増やすための啓発活動や移植を望む患者の支援を行っています。深刻なドナー不足を解消するために、一人でも多くの人に臓器移植について理解してもらい、暗く重いイメージを変えていきたいと話します。
 横山慎也さん「(臓器移植は)ハートフルであったかくて明るい医療なんですよね。だから自分の中の理想は『もし脳死になった時移植する?』とかっていう、感覚的にそういう会話ができるような日本の社会になってくれれば良いなと思うんですけど」