村井宮城県知事「今の体制でずっと残せば、 20年後30年後に仙台市の病院が2つ3つ無くなると思いますね」
宮城県が進めてきた仙台医療圏の病院再編は、東北労災病院が富谷市への移転を断念し計画が混迷を深めています。仙台市との対立も深まる中、村井知事が思い描く仙台医療圏の未来について聞きました。
労働者健康安全機構大西洋英理事長「東北労災病院の富谷市への移転を断念することとし、これをもって協議を終了いただきますようお願いする次第です」
村井宮城県知事「苦渋の決断ということであるならば、我々としても受け入れざるを得ないと」
9日に突如発表された、東北労災病院の富谷市への移転断念。宮城県が進める仙台医療圏の病院再編計画が、岐路に立たされました。
村井宮城県知事「このような決断になりましたので、次のステップに向けてですね、どうすればいいのかと良く考えて参りたいと思います」
そもそも、病院再編計画が打ち出されたのは、2021年にさかのぼります。
村井宮城県知事「仙台赤十字病院と県立がんセンターを統合し、新たな拠点病院の整備について協議を開始。診療内容を含む病院規模について来年度中の基本合意を目指す」
宮城県は県内を4つの医療圏に分け、病院や医師が特定の地域に偏らないよう配置しています。仙台市を含む仙台医療圏は、最も多い約150万人の人口を抱えています。仙台医療圏には拠点となる病院が11ありますが、そのうち10病院が仙台市内に集中し競争が激しく経営の悪化が課題となっていて、仙台市の外に移転し移転先の自治体からの支援も受けることで病院を存続させる狙いでした。
病院再編を5期目の公約として掲げて当選した村井知事は、県立がんセンターと仙台赤十字病院を統合して名取市に、県立精神医療センターと東北労災病院は経営主体を残したまま富谷市に集約する計画を推し進めてきました。
村井宮城県知事「これを止めることは当然、何の根拠もありませんからできない。私がやったことに対して止めることができるのは県議会だけ」
その結果、県立がんセンターと仙台赤十字病院は名取市に移転することで合意しましたが、患者から反対の声が上がったことなどから精神医療センターは一転、現地での建て替えが決まりました。そして、東北労災病院も富谷市への移転を断念することになりました。
当初の計画から大きく変わった県の病院再編について、村井知事はこのままでは病院の存続は困難だと危機感を抱きます。
村井宮城県知事「名取市や富谷市は病院を財政的にも支えると言っている。なぜ支えられるかというと病院が1つしかないからです。仙台市に病院を残す意味でも、今は病院の適正配置をしなければいけない」
病院再編をめぐっては、宮城県と仙台市の間で対立が続いています。
郡仙台市長「今後更に、仙台市は周辺市町村よりも救急をはじめ医療需要そのものが増加すると見込まれ、大変危機感を持っている。村井知事は(病院の)適正配置が必要だとおっしゃっているが、この将来予想をどう判断しているのかを私は問いたい」
郡市長は、仙台医療圏のうち特に仙台市で高齢者が増え医療の需要が増すとして仙台市に病院を残すことの必要性を訴えています。病院再編を訴える村井知事と、必要ないとする郡仙台市長の主張は真っ向から対立したままです。
村井宮城県知事「高齢者が増えるから、たくさんベッド(病院)があったほうがいい。その通りなんですけど、前提として病院が存続しないと意味が無いでしょということ。今の態勢でずっと残せば、仙台市の病院が2つ3つ無くなると思いますね。私としては病院全体を残すためにどうすればいいのかということを考えないといけない。宮城県知事として苦しくても、厳しくてもやらなくてはいけないという覚悟を持ってやっている」
宮城県と仙台市の医療政策に委員会のメンバーとして提言も行った、東北大学の藤森研司名誉教授に話を聞きました。
藤森名誉教授は、病院経営についてはベッドの利用率を示す病床利用率が重要になると指摘します。
仙台医療圏の各病院の病床利用率です。8割に達しないと採算が取れないとされていますが、仙台医療圏では平均で約73%とほとんどの病院で経営が成り立っていない状況といえます。
藤森名誉教授は「今ある病院でも経営が苦しいため、今後の存続はかなり難しい。高齢者人口が増えるとはいえ、このままでは20年から30年も持たないのではないか」と話しています。
病院の経営悪化が全国的な問題になる中、病院の存続と住民の納得をどう両立するか、課題はまだ残されています。