仙台市中心部のランドマーク的存在だった老舗時計店の三原堂が、5月に惜しまれながら閉店しました。老舗の歴史を受け継ごうと立ち上がったのは、元社員たちでした。

 仙台市中心部のクリスロード商店街で、ひときわ大きな店舗のシャッターが今も閉じられたままとなっています。
 「駅から365歩」のキャッチフレーズでおなじみだった時計店、三原堂は1932年に創業し、高度成長期や令和にかけて仙台の街並みが変化していく中でも、中心部に店を構え続けた街のランドマーク的な存在でした。

惜しまれながら閉店

 93年の長きにわたって宮城県民に親しまれてきましたが、5月に惜しまれつつ閉店しました。閉店の理由については「諸般の事情」としています。
 途絶えるかに思えた老舗の伝統を守ろうと、立ち上がった人がいます。三原堂で時計の修理を担当していた安斎庸介さんと宮本宏之さんです。
 三原堂元社員安斎庸介さん「修理が自分の中で楽しいなあと思えるような場所を自分の中でつくってもらえた場所が三原堂なのかなあと」
 三原堂元社員宮本宏之さん「お客様からの信頼度が非常に高かったので、安斎とやっていて。いけるかなあとは思ってちょっと飛び込んでみました」

 三原堂の建物の裏側に回ると、隠れ家のような小さな店があります。2人が7月下旬に立ち上げた時計修理工房、時の蔵です。代表の安斎さんは、三原堂で18年間延べ10万本以上の時計修理に携わってきた熟練の職人です。
 時の蔵安斎庸介代表「ぜんまいが切れてますね。修理内容としてはオーバーホール、分解掃除になるんですけれども」

 三原堂でお客さんの対応もしていたという安斎さんは閉店すると聞いた時、真っ先に浮かんだのは顔なじみのお客さんたちだったと言います。
 時の蔵安斎庸介代表「仙台市のみならず東北でも時計店や時計修理店が少ないので、修理で困る方が出ないようにしたいと。お客さんを守りたいという気持ちの方が強かったので、それで事業を立ち上げる決意をした感じです」

現地で歴史を受け継ぐ

 安斎さんの隣で黙々と修理に取り組むのは宮本さんです。三原堂では長く販売担当でしたが、修理部門への異動で安斎さんと同僚になりました。
 三原堂の閉店を控え、修理工房を立ち上げるべきか悩んでいた安斎さんに、宮本さんが「一緒にやろう」と声を掛けたことが決め手になりました。
 時の蔵宮本宏之マネージャー「1人より2人の方がより安心して相談相手にもなりますし、進んでいけるかなと思ったので一緒にやっていこうという話にはなりましたね」

 2人がこだわったのは、三原堂と同じ場所で修理の仕事を続けること。場所が変わるとお客さんに迷惑が掛かるという思いからです。そんな思いを三原堂の社長に伝えたところ、店の奥のスペースを使ってもいいということになり秘密基地のような小さな修理工房が立ち上がりました。

 こちらのお客さんは、時計の修理をお願いしていました。
 お客さん「勤め先がこの辺だったんで三原堂さんをよく利用してたんですね。この時計もすごい古いんですけど、中を掃除してもらったり電池交換してもらったりしてたので助かります」

時の重みを修理

 時には、こんなことも。
 「お電話ありがとうございます。三原堂でございます」
 閉店した三原堂への電話が掛かってきます。
 時の蔵安斎庸介代表「今まで三原堂の連絡先だけ知っていたお客さんとかからもお問い合わせって少なからずあるので、そっちも受けられるように。特に遠方の方とかだと三原堂が閉店したことを知らない方もいらっしゃるので。もちろんうれしいですね、やっぱりそれだけ三原堂のことを信頼してくれていたんだなと思いますね」

 工房の自慢は老舗で培った高い技術です。ミリ単位の部品1つ、ねじ1本にまで細心の注意を払う、極めて繊細な作業です。
 時の蔵宮本宏之マネージャー「様々な道具は使いますね。数ミリ、2ミリ1ミリ台の物もございますね。(部品は)遠目から見るとごみに近いぐらいの。ねじを外したら必ずこうやった決まった所に置いていかないと、どこに行ったかというのは分からなくなってしまうので」
 時の蔵安斎庸介代表「単純に自分が時計が好きだ、好きになったので、時計の修理が好きになったので。動いたとか、そういう修理が完了した状態を見た時の笑顔っていうのはやっぱりうれしいですよね」

 スマートフォンを見れば時間が分かる時代だからこそ、アナログの時計が刻む時間の重みを感じてほしいと安斎さんは話します。
 時の蔵安斎庸介代表「腕時計ってなると全部それぞれ違うデザインだったりとか、人の手が加わってそれで作られている。修理やメンテナンスとかを定期的にやっていれば長く使える、次の世代まで使う渡すっていうこともできる物なので、皆さんが時計の良さっていうのも分かってくれるとうれしいですね」

 目指すのは三原堂のように、長く愛される街の時計屋さんです。
 時の蔵宮本宏之マネージャー「慣れてないところも全然あるのでそれで悩むところもたくさんあったんですけどそれを乗り越えた時の、やっぱり他では味わえないところはありますね」
 時の蔵安斎庸介代表「ちょっと前までサラリーマンだった自分が、いきなり大きな事ができるわけはないと思いますので、小さいところからで地域に根差したところ、そこから頑張っていければなあとは思っています」