日本では、心臓移植の長い待期期間が課題となっています。待ち続けて5年、変わり始めた移植医療に葛藤を抱える女の子です。

 7月9日に東京都で開催された小児循環器の学会では、心臓移植を待つ子どもたちの待機などについて議論が交わされました。
 東京女子医科大学石戸美妃子医師「国内で心臓移植を受けた小児の症例は106例、平均の待機期間は約650日程度です。日本全体として非常に待機が長い状態が続いております」

 意思表示が少ないことや医療機関の受け入れ態勢の整備が進まないことなどを背景に、日本は他の国と比べて臓器の提供件数が非常に少なく、更に子どもは体が小さく適合する心臓が限られるため移植が進みにくくなっています。
 東京女子医科大学石戸美妃子医師「アメリカは2週間から4週間で出るような場所もあれば、数カ月で出る所もある。ただ、年単位で待つ所はほとんど無いと思うので、日本はすごくドナーの数が少ないとは感じています。待機期間は長いです」

 元気な笑い声を響かせる陽菜さんは、千葉県に住む中学3年生です。いつもバッグと一緒です。
 陽菜さん「一種の家族みたいな。心臓がほぼ動いてないので、心臓代わり。友達か家族みたいな、大事な存在ですよね」

 バッグの中には心臓を守るための機械が入っていて、重さは2キロ以上あります。
 家族5人で元気に生活していた陽菜さんが異変を感じたのは9歳の時、学校での活動中でした。
 陽菜さん「こっちは全力で走ってるのに、追いつこうとしてるのに追いつけなくて、息切れが止まらなくて下手したら意識飛ぶんじゃないかなって」

 病院を受診した結果、心臓の筋肉が弱くなり血液を送り出す力が低下する拡張型心筋症と診断されました。心臓移植が必要だと告げられ、補助人工心臓を装着しました。
 陽菜さん「病気って本当に存在するんだなって思ってて、でもその当時、あまりよく理解していなくて薬飲めば治るよなって軽い気持ちで考えていたら、こんなことになってしまったので驚きですよね」

 陽菜さんのお母さんには、今でも忘れられない光景があります。
 陽菜さんの母親「病院の窓から病院の前の歩道をただランドセル背負って歩く子どもを見て、普通に道を歩くだけだと思うんですけど、ほんとにそれがすごいことだったんだなと思いました」

 約半年間の入院を経て制限がある中で学校に通っていましたが、2年前に症状が悪化し再び大きな手術を受けることになりました。この時から成長が止まり、体への負担も増えていきました。

 学校に通えるのは週に3日ほどで、1日1時間だけです。1日3回の薬も大きな負担となり、食べられる量も大幅に減りました。
 陽菜さん「胃が病気になってから、小さく全然入らなくなってしまって。幼稚園児の量、食べるかなって量になってしまって」

 心臓移植を待ち続けて、5年が経ちました。この日は、月に2回の通院の日です。陽菜さんの担当医は、石戸美妃子医師です。
 東京女子医科大学石戸美妃子医師「状態的には補助人工心臓が入っているので比較的安定はしてはいるんですけれども、待機が長くなれば長くなるほど色々なリスクは上がってきてしまうので、やはり1日も早く移植してあげたいという状況ではあるかなと思います」

 心臓移植を待つ患者には、病状や待機期間などに応じて移植の優先度を決める3段階のステータスがつけられています。2026年春から余命1カ月以内など命の危険度が高い患者を対象に、ステータス1Aが新設されました。待機期間にかかわらず緊急性の高い患者が優先して移植を受けられることで、待機中の死亡を減らすことが期待されています。

 ただ、石戸医師は、ステータス1Aは比較的ドナーが出やすい成人を想定した制度で今後、小児の実情に合わせて見直す必要があると言います。
 東京女子医科大学石戸美妃子医師「体重10キロ未満のドナーは、年に1人出るか出ないかという状況だと思うので、そうすると結局1人入ってしまって、その子がもし移植優先されてしまうと、次に待ってたお子さんに同じ体格が出るのは1年後かもしれないし2年後かもしれない、ということが起こりうるというところが小児はちょっと状況が違うのだと思います」

 陽菜さんはステータス1ですが、補助人工心臓の装着による脳梗塞や感染症のリスクとは常に隣り合わせです。
 陽菜さんの母親「その少ないチャンスを飛ばしてしまった後に、陽菜が無事に移植を受けられるのかどうかの保証が無いので、その点は不安に思うところはあります」
 陽菜さん「こっちは命をいただくわけだから何とも言えないんですけど、一生このままなのかなと思うことはあります。このまま、もう1回手術になったらどうしようとか思ったり、死なないかなとか思ったりします」

 この日は、大好物のピザがあるというお気に入りのパン屋さんに家族と出掛けました。食べることが大好きな陽菜さんは、いつかまたお腹いっぱい食べたいと願いながら1日1日を重ねています。
 陽菜さん「この機械が取れたら、健康で何の病気にもかからず優しい人になりたいです。
健康で普通に暮らせる人になりたいです」