東日本大震災の際、避難所では必要な支援物資が十分に届かないという課題に直面しました。この教訓を次の災害に生かそうと、支援物資の発注や受注をITを使って効率化する取り組みが始まっています。

 1月、仙台市の職員らが参加して、避難所の運営を支援する新しいシステムの実証実験が行われました。避難所の入り口近くに設置されている、このモニター。人工知能を搭載した「AIカメラ」が取り付けられています。
 避難してきた人が、その前を通ると、性別や年齢、人数をAIカメラが瞬時に判別し、データを自治体に送信。自治体では、このデータを基に、避難所ごとに必要な支援物資の量や種類を把握するのに役立てます。

ITが避難所の運営を支援

避難所運営支援の実証実験

 実証実験で受付を担当した仙台市職員「自動でここを通ってもらえれば、(避難者の情報が)ある程度分かるということで、人手の削減だったりとか、来る避難者にとっても、負担が少ないという形でメリットが大きいと思う」

 このAIカメラによる集計システムを開発したのは、青葉区にあるソフトウェア会社「アンデックス」です。きっかけは震災の際、代表の三嶋さんが避難所で目にしたある光景です。県内で最大32万人が身を寄せた避難所。必要な物資が届かない状況が、各地の避難所で起きていました。
 アンデックス三嶋順代表「(避難所で)おむつをしているお子さんがいて、おむつが届かなかったことがあったり、女性が多く避難した避難所には、女性が必要な避難物資が無かったことがあった。(このシステムで)どこの場所にどういった避難物資を送れば良いのか、判断できるというような形になります」

 実証実験の結果、AIカメラの前を行き来した避難者や受付の職員を重複して集計してしまう課題が見つかりました。避難者が出入りする動線を分けたり、カメラに映る範囲を狭くしたりするなど改善していき、早ければ2023年度中の運用開始を目指します。
 アンデックス三嶋順代表「今の世の中はIT、ICT、テクノロジーをいかに組み合わせて世の中を作っていくかが重要になっていると考えています。この仙台から全世界に広めていきたいと考えています。それが私たちの役目なのかなと思っております」

注文の整理に時間を割かれる

 震災では、支援物資を受注する企業の現場でも課題が残りました。県内の避難所や仮設住宅に約400万点の支援物資を提供したみやぎ生協。当時、支援物資の受注業務に当たっていた千葉徹さんは、自治体から寄せられた注文内容の整理に膨大な時間がかかったと振り返ります。
 みやぎ生協千葉徹さん「(支援物資の)要請方法が、電話、FAX、メール等、いろんな手段があります。それが一つの課題。いろんな自治体の分が来ているので、途中で訳が分からなくなる状況もあったりとか。いやー大変でしたね」

 更に「食料3日分」や「衣類100人分」など、種類やサイズが明確に分からない注文も多く、一つ一つ自治体に確認する必要がありました。
 みやぎ生協千葉徹さん「正直申し上げると、アナログ的な部分が非常にまだまだあったので、ここを改善できればスムーズに、要請があって指定された場所まで物資を届けることについては、もうちょっと仕組み化できるのではと考えています」

 こうした課題を解決しようと、名取市のIT企業「プライムバリュー」が開発しているのが、支援物資の受注をインターネット上で行うシステムです。このシステムでは、自治体の担当者があらかじめシステムに登録されている物資の中から必要なものを選択します。例えば、2リットルの水を30ケースなど、サイズや単位、数量まで詳細に入力。発注した後は、システム上で配送の進捗状況を確認することができます。
 プライムバリュー吉田亮之代表「企業が商品を準備するのに必要な情報が、全て網羅されてるってことが大前提なんですね。このサービスを使えば、いちいち聞き直す手間は、そもそも必要ないという形になります」
 2022年6月の運用開始を目指していて、行政の他、スーパーやホームセンターなどが導入を検討しています。

仙台市が補助事業を開始

仙台市がIT活用を支援

 こうした防災にITを活用する取り組みを自治体も支援してます。仙台市は、機器の開発などにかかる費用について、最大で100万円を補助する事業を2020年から始めました。支援物資の発注や受注のシステム開発も、この事業から生まれました。震災の教訓を次の災害へ生かす。
 仙台市経済局産業振興課荒木田理課長「仙台市にもICT企業が集積しているので、その集積を生かしてビジネスにしていくと。そのビジネス化によって、国内だけではなく、海外にも展開を進め、世界の災害リスクの低減を仙台市としても貢献していきたいというふうに考えてまして、それがこの東日本大震災を経験した仙台市としての使命でもあると考えております」

 防災にITを活用する取り組みでは、津波警報をドローンで発信するシステムや防災無線の音声を耳が不自由な人でも聞き取りやすいよう変換するシステムの開発などが進んでいて、実用化に期待がかかっています。