激しさを増す村井宮城県知事と郡仙台市長の対立についてです。背景には、ある問題への危機感と対応の違いがあります。

 仙台医療圏の4病院を再編しようという宮城県の構想をめぐり、知事と各市長が意見を交わした10月の懇談会では、構想に疑問を投げかける郡仙台市長に対し、村井知事は「人口が減り病院の経営が更に厳しくなった時に支援する用意はあるのか」と、ただしました。

 村井知事「病院が立ち行かなくなってしまった時に、建て替えするとか移転するとかいった時に、仙台市はそれに対してかなりの財源が必要になるんですけど、そういったことができるんですか?って聞いているんですよ」
 秒郡仙台市長「大変申し訳ないんですけど、こういう議論をこういう場で…」
 村井知事「こういう場でしないと駄目だと思いますよ。こういう話は。内々で話すんじゃなくて。それこそ逃げていると言われると思いますよ」

 懇談会直後の郡仙台市長の記者会見です。
 記者「端的に伺います。完全に知事との信頼関係は破綻しているように思えるんですけども」
 郡市長「ねえ。ねぇ」
 記者「この後、県と市、医療政策以外でも連携が連携が必要な立場同士ですが、どうするんですか」
 郡市長「ねえ。どうしたら良いでしょうかねえ」

人口減少への危機感の違い

 村井知事と郡市長の間の深い溝。背景には人口減少に対する危機感の違いがあります。
 宮城県の人口の推移です。2003年の237万人をピークに減少を続けていて、国の研究所の推計では2040年までに200万人を割るとみられています。村井知事は、人口減少に対し今手を打たなければ将来につけを残すと考えています。

 その1つが仙台医療圏の4病院再編です。村井知事は、人口が減れば容体の不安定な急性期の患者も減るのだから、病院をまとめてベッド数も減らし経費を抑えたいと言います。集約する場所は、元々病院が多い仙台市ではなく、用地の確保に協力的な富谷市と名取市が適していると考えています。

 一方、郡市長は人口減少に村井知事ほどの危機感を持っているようには見えません。
 郡市長「仙台市域におきましては、人口減少のスピードが県全体に比べると非常に遅いということもございます。(仙台市に)民間の病院がたくさんある中で、どこか特定の病院に対して建設のコストなり何なりを補助するということについては、やはりこれは難しい」

仙台市民の認識は

 仙台市の人口は増えていますが、市の推計では5年後の110万人をピークに減少に転じ2057年には100万人を割ると見られています。人口が減ることに「ピンとこない」という仙台市民は少なくありません。
 仙台市民「意外です。色々な商業施設とかも建ってきて住宅街の開発とか進んでいるので、仙台市の人口は増えていくんじゃないのかなって思っていたんですけど、減っていっちゃうんですね」「(自宅の周辺に)アパートがいっぱい建っちゃって。あんまりそういう実感はピンと来ない」

 東北各地から若者が集まる宮城県、仙台市の人口がなぜ減っていくのか。有識者は、就職をきっかけに女性が首都圏に流出していることが大きいと指摘します。
 人口問題に詳しい東北活性化研究センター地域・産業振興部橋本有子さん「全国的な地方の転出の傾向ではあるんですが、20代前半の転出が多いというところが特徴的。望む仕事がなかなかない現状がある」

 人口減少を少しでも食い止めるには、若い世代に魅力的な職場づくりと地元企業を知ってもらう取り組みが更に必要です。
 一方、人口減少を背景にした宮城県と仙台市の対立は他の課題でも。人口減少に伴い住宅が余ることを見据え、村井知事は老朽化した県営住宅を原則として建て替えない方針です。
 村井知事「災害公営住宅が建てられたことに加えまして、人口減少や少子高齢化の進行に伴って住宅ストックの余剰が増えていくことから、新たな公営住宅の整備を積極的に進める状況にはない」

 宮城県101カ所のうち、まずは仙台市を含む6カ所について10年後をめどに廃止する構えです。廃止する県営住宅の住民の引っ越し先には仙台市営住宅も想定していましたが、郡市長は受け入れに難色を示しました。
 郡市長「本市の市営住宅は非常に申し込みの倍率が高くて、現状で市営住宅に県営住宅にお住まいの方を受け入れるのは難しい」

 村井知事の進め方にも不満を示しました。
 郡市長「まずはじめに、関係する(仙台市などの)宮城県の自治体に説明があれば良かったんでしょうけれども」

「正面から議論すべき」

 かみ合わない村井知事と郡市長。地方政治に詳しい専門家は、「人口減少が本格化する中、どう対策を取っていくのか村井知事と郡市長は、正面から議論すべきだ」と言います。
 東北大学大学院河村和徳准教授「これからはなかなか人口が増えないので、インフラをどういう形でアップデートしていくか。(村井知事の)私がやるからいいんですとか私の職を懸けるとかっていう話は一見、勇ましいんですが、そこを知りたいのではなくて、どうしてそういう選択をしたのっていうプロセスのところ(の説明が十分できていない)。(人口減少をめぐる)仙台市民の当事者感のなさと、周辺の県民や周辺の自治体の危機的なものの間の温度差があって、もう少し説明してあげないと埋まらない」

山本精作記者
 「村井知事と郡市長の対立の背景は人口問題があります。両者のやりとりには改善の余地がありそうです。感情を抑え、分かりやすい議論をしてほしいと思います」
 「立場の弱い人に配慮し、宮城県と仙台市が互いの情報をできる限り公開した上で、次世代を含めた住民のための政策を練り上げてもらいたいと期待しています。