富士山の閉山後に無断で通行禁止エリアに侵入する“無謀登山者”が続出しています。その現場を取材しました。(サタデーステーション9月13日OA)

■1時間半に23人も…通行止め無視 続出

3連休初日、富士山は深い霧に覆われ、激しい雨も降りました。

報告・田中昌貴ディレクター(13日 静岡・富士宮ルート6合目) 「7合目に繋がる道にはバリケードが設置してあります」

今月10日、今年の登山シーズンは終了。6合目には通行禁止の看板が設置されました。毎年、閉山時期に問題となっているのが…

報告・田中昌貴ディレクター(13日 静岡・富士宮ルート6合目) 「5人ほどでしょうか、登山道をおりてきます」

無断で侵入する“無謀登山者”です。通行禁止のバリケードを越えて進んでいきます。

「シーズン終わっていますがこれから登るんですか?」

雨の中、番組が取材した1時間半のうち、通行禁止エリアに侵入したのは23人。違反者には6か月以下の拘禁刑、または30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。下山してきた男性を直撃すると…

Q.登山シーズンに登らず、今登る理由は? 「特にないです」

別の女性はロープを掴みフラフラになりながら下山。“高山病の疑い”でベンチに座り込んでいました。気温11度の中、短パンにレインコート姿の外国人は雨で靴がびしょ濡れに…

ドイツからの観光客 「閉山中だけど、雪やひょうは降っていないから大丈夫だよ、ただ靴はびしょ濡れだ」

去年、閉山期間中に遭難した人は6人。そのうち4人が死亡しています。

静岡富士山ガイド協会 小池 亦彦 理事 「(閉山期間中は)レスキューもいないし、山小屋も閉まっていますし何かあったときに完全に自分で完結しなければならない」

■富士山頂で“上裸に短パン”外国人

静岡県警ではシーズン中、9合目の山小屋に隊員が交代で常駐しています。ただ、閉山期間は救助体制を編成して警察署から救助に向かうといいます。

静岡県警山岳遭難救助隊 湯澤徹也隊員(30) 「結局スピード感が大事なので…」

救助に向かうのは、山岳遭難救助隊。閉山前、最後の2日間、番組が同行取材したのは、湯澤隊員と岡本隊員です。閉山間際の9月は気温も下がり“低体温症のリスク”が高まるといいます。

静岡県警山岳遭難救助隊 湯澤徹也隊員(30) 「山の上の方は秋めいて冬に近いような気温になっちゃうんで低体温症になるリスクがあがりますね」

今の時期の富士山山頂は日中でも気温は9.7℃。ただ日が沈むと、気温はさらに冷え込み、山頂付近には、小さなつららが出来ていました。救助隊のパトロールに密着していると、4人組の男性が座り込んでいました。

4人組の男性(東京からの登山者) 「しんどいです、正直ちょっと帰りたいです」

静岡県警山岳遭難救助隊 岡本憲伍隊員(22) 「1人ですか?ゆっくり行ってください」

今年、高山病や低体温症などで救助した人は36人。そのうち12人は外国人登山者でした。山頂付近でパトロールを続けていると目を疑うような光景が…

報告・田中昌貴ディレクター(9日 富士山頂付近) 「あちらの外国人ですが、Tシャツを脱いで背中にかけていますね…」

上半身裸で短パン姿の外国人登山者。一緒にいる外国人女性も肩や背中が出るタンクトップに短パン姿。2人は記念撮影をしていました。このとき、山頂付近の気温は8.7℃。救助隊と声をかけようと思ったら、すでにいなくなっていました。

■気温4.4℃ 今シーズン最後のご来光に大混雑 

そんな中、9合目の山小屋で私たちが出会ったのは、富士山が初めてだという2人組の女性。

女性「風強いですね」 女性「冷えますね、風、寒い…」

10日の午前3時すぎ、山小屋付近の気温は6℃ほど。時折風が吹くと、さらに寒く感じるといいます。山頂に向かって進んでいくと、徐々に風が強くなっていきます。

報告・内田吾郎(10日 静岡・富士宮ルート9合目付近) 「頂上付近に近づくにつれ、風がとても強くなってきました、体温と体力が奪われるのを感じます。とても寒いです」

午前4時15分ごろ、山頂に到着。気温はさらに下がり4.4℃。まだうす暗い中、多くの人でごった返していました。ご来光の時間は5時20分ごろ。風を遮ることができない場所で1時間も待つ羽目に。それでも今シーズン最後のご来光は、まさに絶景です。

初めてご来光を見た女性 「寒いので(山頂で)待つのはお勧めしません、良いエネルギーをもらえたと思います」

■登山者は21万人超 今年の“2つの異変”

今年、21万人以上が登った富士山。救助隊は今年は例年とは違う“2つの異変”を感じていました。

静岡県警山岳遭難救助隊 湯澤徹也隊員(30) 「天気がいい日が多くて雨があまり降らなくて時折、強い雨が局地的に集中して降ったりして、風も3、40m吹いていて」

1つ目の異変は、例年よりも雨の日が少なかった一方、降るときの総雨量は例年のおよそ3倍にもなったということです。中でも湯澤隊員が遭遇した先月10日は激しい雨に加え、最大瞬間風速は40m以上、台風並みの強風が吹き荒れました。そんな中、救助要請があったといいます。

静岡県警山岳遭難救助隊 湯澤徹也隊員(30) 「高山病が原因だったとは、思うんですけど、意識が朦朧として雨の中(救助者を)背負いで下ろしたということですね」

似たような事例は先月7日、番組が富士山を取材したときにも。3日間の取材で初日と2日目は晴天でしたが、最終日は大荒れに。

救助隊 「意識はあるの?」 「意識はまだある、目は動いています、脈はあります」

これは山頂で動けなくなった70代くらいの男性を救助する様子です。男性は、十分な装備をしていたにも関わらず、低体温症とみられる症状で受け答えができないほど衰弱。自力で起き上がることもできません。隊員が男性を背負い搬送します。強風の中、男性を運んでいると…時折、風速30m以上の台風並みの強風が吹き荒れ、隊員を襲います。

救助隊 「多分、我々も動けない。助けを呼ぼう、ダメだ、絶対運べない」

このまま進むのは危険と判断。2人の交代で9合目を目指していた別の隊員に無線で応援を要請します。

救助隊 「風をまともに受けるとキツイ…ちょっと変わってもらっていいですか?」 「もうちょいです、もうちょっと頑張ろう」

他の隊員や山頂のスタッフなどの協力もあって何とか男性を救助することができました。

■入山規制の効果 静岡側で死者ゼロ、救助件数も“半減”

そして、もう1つの異変は入山規制の効果です。去年、静岡側の死者は6人でしたが今年は1人も出ていません。静岡側で今年から導入された入山規制。弾丸登山対策として入山料を1人4000円徴収。さらに、夜間の入山を規制。その結果、弾丸登山者も減り、救助件数も去年のおよそ半分に留まっています。

静岡県富士山世界遺産課 岡部晋治 参事 「例年に比べて山が静かだったという話も伺っています。今年は静岡側では死者数が出ていないということで、一定の効果があったのではないかと思っています」

一方で、課題もあります。番組の取材の中で見えてきたのは「暗くなってから山小屋に到着する登山客」が目立ったことです。

友人と2人で初めて富士山に登ったという40代男性。午後1時すぎに5合目を出発。9合目の山小屋まで5時間40分ほどかかり、到着したのは午後7時前。このとき、友人はまだ到着していません。山小屋で待っていると、9合目まであと少しの所で動けなくなっていました。 友人が到着したのは、午後7時半過ぎ。山小屋の受付時間を過ぎていましたが消灯前だったので何とかギリギリ間に合いました。9合目で山小屋を営む店主は山小屋ごとにもっと細かく時間設定をしてほしいといいます。

静岡・富士宮ルート9合目 萬年雪山荘 渡辺和将さん 「各山小屋のその場所においても細かく時間を設定していただくとか、もうちょっと改善してくれればありがたい」

静岡県警山岳遭難救助隊 湯澤徹也隊員(30) 「暗くなるなって思うと焦っちゃって転んじゃったりとか道を間違えたり、ということが考えられるので余裕を持って明るいうちに終えられるプランを組むのが大切」