クマによる人身被害が相次いでいます。宮城県では2025年、4人がけがをして6年ぶりに死者も出ています。こうした中、10月にクマに襲われ搬送された女性が当時の状況を語ってくれました。クマから身を守るすべを考えます。
10月に大衡村でクマに襲われた60代の女性です。
女性「玄関の扉を開けた時にはいたの、もういたの。立ってた」
自宅の玄関先で左腕をひっかかれて出血し、病院に搬送されました。
女性「まだ手も痛いし内出血して手も腫れたし、傷もまだすごいんだよね」
女性がクマに襲われたのは10月25日の早朝午前6時過ぎでした。洗濯物を干そうと玄関から外に出たところ、目の前に体長80センチほどのクマがいました。クマは立ち上がって女性を攻撃し、けがをした女性はとっさに自宅の中に逃げました。
クマはその後立ち去りましたが、想像を絶する恐怖だったと言います。
女性「顔を隠さないといけないと思ってとにかく顔隠して、ガラス戸閉めてうちの中のどこに逃げようかと思ったりして、そして夫に電話かけても通じないし、とにかく警察、どこにかけていいか分からないし、はっきりもう覚えてないの、もうパニック状態」
その日のうちに大衡村の猟友会が庭に箱わなを設置しましたが、いまだに捕獲には至っていません。
女性「とにかく外に出ていくのも1人で家にいるのも怖いし、旦那さん休みの時はいるからいいけど1人の時はもう怖いんだよね」
村井宮城県知事「人身被害のリスクが非常に高まっていると判断しております。まさにかつてない緊急事態だと考えております」
全国的にクマの出没と人身被害が相次いでいます。宮城県では2025年だけで4人がクマに襲われ、このうち栗原市の山中でキノコ採りをしていた70代女性が命を落としています。
クマから身を守るにはどうすれば良いのか。秋田大学の研究で、被害を受けた人にはある共通点があることが分かってきました。
秋田大学大学院石垣佑樹医師「重傷の方は顔のけがが多いと思います。クマが餌を探したり威嚇したりする時に、立ったような姿勢になる。その時に、ちょうど人の頭の辺りに手が来るというのと、顔の辺りをクマは攻撃する習性があるということだったので、そういうことが原因ではないかと考えています」
秋田大学の石垣佑樹医師らは、2023年に秋田県でクマの被害に遭った70人のカルテを分析し、体のどの部位に傷を負ったか調べたところ顔面が55.7%と最も多く次いで手や腕が54.3%、頭部が44.3%と上半身に集中していることが分かりました。
2025年の宮城県での被害を見ても、クマに襲われた4人全員が顔や頭、首や腕など上半身を攻撃されていて、栗原市で襲われて亡くなった女性も首の前側に深い爪の痕が残っていました。
クマに顔面を強打された男性のCT画像では目や鼻に頬やあご、顔の全ての骨が粉砕されました。
秋田大学大学院石垣佑樹医師「顔を殴るような形でクマに攻撃されると、交通事故に匹敵するぐらいの強さがあると言われています。顔の肉が取れてしまって骨が見えていたりとか血管がむき出しになっていたりとか、かなり凄惨な状態で運ばれて来る方が多いです。重傷か致命傷につながるのは、顔とか首周りのけがだと思います」
2023年に岩手県でクマに襲われた男性が撮影した映像では、襲い掛かるクマの爪が
上半身に迫ってきていました。
クマに襲われた時、どのように命を守れば良いのか。石垣医師が挙げるのが防御姿勢です。首の後ろで両手を組み、頭や首を守った状態で顔を伏せて地面に腹ばいになるか体を丸めてかがむ姿勢です。
実際にどれほどの効果があるか、秋田大学の研究では2023年にクマによる被害を受けた70人のうち7人がこの姿勢をとったところ、全員が重傷を免れていました。
一方、防御姿勢をとれなかった63人のうち、3分の1以上の23人が重傷を負っていました。
秋田大学大学院石垣佑樹医師「クマがいそうな所には行かないということが一番大事ですけど、でも最近は市街地で出合ってしまう可能性が増えてきていて、至近距離で出合ってしまった時は基本的にはクマの攻撃を防ぐことは難しいと言われています。防御姿勢をとることによって顔や首、頭、あとは体幹部、腹側の臓器とか心臓がある所を守るような姿勢をとることで、自分の命を少しでも救う。方法をとることが大事だと思っています」
もはやいつどこでクマと鉢合わせてもおかしくない今、心構えといざという時に冷静に身を守るすべが必要です。
宮城県警では万が一クマに遭遇し襲われた場合、まずはクマ撃退スプレーなどを使いひるんだ隙に退避することを呼び掛けています。その上で、反撃できない時は命を守る確率を上げるために防御姿勢をとるよう呼び掛けています。