臓器移植の調整や患者の家族のサポートなどを担うコーディネーターが、ドナーが増えている一方で不足しています。移植医療の現状と課題です。

 東北大学病院高度救命救急センター古川宗医師「今ヘリコプターが来て、これから飛び立てるように医療資器材のチェックと無線のチェックと。私自身は救命センターに勤めている救命医ですね。普段は救急で来た患者さん、特に当院は最重症の患者さんを受けるというのが使命としてますので」

 東北大学病院に勤務する古川宗医師のもう1つの顔は、移植コーディネーターです。
 東北大学病院高度救命救急センター古川宗医師「患者さんに対しては全力を尽くして救命を目指すことになりますけれども、中にはかなり厳しい方もいらっしゃいますし最期のお望み、ご希望がかなえられるように院内コーディネーターという形での仕事もさせていただいている」

移植コーディネーターが不足

 患者が脳死とされうる状態、回復の見込みがないと判断された時、最初に患者の家族をサポートするのが病院に設置された院内コーディネーターの役割です。臓器提供という選択肢があることや説明を聞くことを希望するかなど、患者の家族と話をしていきます。臓器提供をすることとしないこと、どちらも大切な意思決定です。

 東北大学病院高度救命救急センター古川宗医師「ご家族の方で話し合ってOKと言いましたけど、よくよく個人個人にお気持ちとかを聞くと実はあまり同意をしていなかった、やっぱり臓器提供やめましょうという話にもなりますし。臓器提供する、あるいは臓器を提供しない。どちらの選択をしても100%本当に正しかったのかなと思ってしまう、それがでも自然だと思うんですよね。その人のために色々と考えたということですので、それが一番大事だと思うんですよね」

 臓器提供の意志がある場合、法律で業務を許可されたJOT=公益社団法人日本臓器移植ネットワークや委嘱を受けた都道府県ごとのコーディネーターに引き継がれます。臓器提供について家族へ同意の取得や承諾書の作成、移植先の調整などをして脳死判定から臓器の摘出へと進みます。
 東北大学病院高度救命救急センター古川宗医師「お預かりした臓器をどなたかにあげるようにして、その人が助かるのであればそれはそれでまた1つ救命としての役割にもなるのかな」

 1997年に臓器移植法が施行され、本人の意思表示があれば脳死での臓器移植が可能になりました。1999年には日本中の注目が集まる中、東北大学病院で国内初めての脳死での臓器移植が実施されました。この時に主治医として携わり、現在は宮城県腎臓協会で移植の普及や啓発に注力する藤盛啓成さんです。
 宮城腎臓協会藤盛啓成副理事「当時は記者が毎日見えて、取材を受けていました。色々状況を説明したりしていたんですけども、1997年の臓器移植法ではなかなか脳死臓器の提供が無かった」

 2010年の臓器移植法改正で家族の同意でも臓器提供が可能となると臓器提供数は増加傾向をたどり、ここ数年では130を超え2025年は136件と過去最高を更新しています。しかし、ドナーが増える一方でコーディネーターの課題も見えてきました。

ドナーが増え課題も

 宮城腎臓協会藤盛啓成副理事「コーディネーターの数は全然足りてないですね。実際に脳死臓器提供を希望する方がいても、コーディネーターがいないために臓器提供がうまくいかなかったという例があるようなんですね。これから更に臓器提供者が増えれば、対応困難という状況になっていくと思います」

 日本臓器移植ネットワークでは、現在32名で全国の臓器移植に対応しています。連携して業務に当たる都道府県に設置されたコーディネーターも宮城県を含む34府県で1人ずつとなっていて、業務のひっ迫が問題となっています。

 こうした状況を受け、国は日本臓器移植ネットワークが担う臓器提供の説明や同意取得などの業務について、民間法人への移行を進めています。そして、一定の技能がある院内コーディネーターが同意取得などを可能にすることで、日本臓器移植ネットワークの負担軽減を目指しています。一方で、院内コーディネーターの数も十分ではありません。東北大学病院では、医師や看護師など計4人です。
 東北大学病院高度救命救急センター古川宗医師「院内コーディネーターは足りないと思います。患者さんや家族の意思をくみ取れるシステムで考えると、もっと人がいるかなとは思います」

 ドナーから臓器提供がありながら、病院の受け入れ態勢が整わないことを理由に移植が見送られたケースは、2024年に全国で662件に上っています。背景には、院内コーディネーターが足りないことや、急な移植手術に医師が対応できないことなどがあるということです。病院の経営面から移植医療に人員を割けない実情があるとして、国は補助金などの支援を拡充し移植実施体制の強化も進めています。
 東北大学病院高度救命救急センター古川宗医師「そういう方がいつ出たとしても、その意思を尊重できるように最大限努力することが今できることかな、という気はします」

 1997年の臓器移植法施行から28年が経過し、国の調査では臓器提供の意思表示をしている割合は2021年は10.2%でしたが、2025年は20.9%に増えています。藤盛医師は、未来へ向けた草の根活動が重要だと話します。
 宮城腎臓協会藤盛啓成副理事「小学生に対する教育は数年前からやられているという話でしたけども、コロナを機にそういった教育がされていないようだということなので改めて若い方への教育を始めなければならない」