愛らしい表情で首を回すとキュッキュッと音が鳴る鳴子こけしの技術を学び、次の世代に伝えようと千葉県から移り住んだ女性が自身のこけし店をオープンしました。

 宮城県大崎市鳴子温泉は、約200年の歴史を持つ鳴子こけしの産地です。伝統の地で新しい一歩を踏み出した千葉県出身の渡辺あかねさん(27)は、鳴子温泉への1人旅をきっかけにこけしに魅了され伝統技術を受け継ぐ地域おこし協力隊として3年前に大崎市に移住しました。

 こけし職人としてキャリア54年の岡崎靖男さん(72)に弟子入りしゼロからこけし作りの技術を学んだ渡辺さんは、3年間の修業を経てこけし工人として4月に独立して自身の店を持つという夢を実現しました。
 渡辺あかねさん「師匠のこけしの特徴は菊の花がすごく美しいなということは思ってまして、空白の美というか色が乗っていないところの形も非常に美しいということが、まねできないです」

 オープンを3日後に控えたこの日は、店の顔となるシャッターのペイント作業が大詰めを迎えていました。看板制作などを手掛けるペインターとして活動する鈴木涼良さん(29)が手掛けています。渡辺さんは2年前、若手起業家が集うコミュニティで鈴木さんと知り合い、作業を依頼しました。
 鈴木涼良さん「あかねさんが1つずつ着実に進めてきたんだなっていうところが改めて尊敬するなと思ったのと、またちょっと思い出して連絡もらえたのがすごくうれしかったですね」

 そしていよいよオープンの日を迎えました。開店前には師匠の岡崎さんの姿がありました。
 岡崎靖男さん「丸のことか旋盤とかはうちの物を使うから、まだまだサポートします」
 渡辺あかねさん「どうぞお入りください、いらっしゃいませ」
 買い物客「きょうオープンっていうのは分かってたから、応援しに。小さなこけしなら色々な所に飾れるから良いかなと思って」

 伝統的なこけしのほか、店頭でひときわ目を引くのが色鮮やかな創作こけしです。渡辺さんならではの自由な発想から生まれた、様々な形や模様のこけしが並びます。菜の花こけしは、修業時代に見た宮城県大崎市川渡温泉の桜と菜の花畑をモチーフにしています。
 フランスから「色の組み合わせが気に入ったし、とても現代的。こけしを選ぶ時に1つずつ見るんだけど、目が合うとこけしが私を買ってと言っているように感じた」

 お店がにぎわう中、師匠の岡崎さんがろくろの前に向かい、渡辺さんのこけしにろうを塗って仕上げます。
 渡辺あかねさん「全然私がやるのより良くなっちゃった。師匠の方がピッカピカなんですよね」

 師匠の岡崎さんがこの道に入った1960年代、80人ほどいた鳴子こけしの工人は現在、約20人にまで減少しそのほとんどが60代後半です。家族経営の工房が多い中、地域に新しいこけし店ができるのは実に50年ぶりだといいます。
 岡崎靖男さん「本当にありがたいなと。そしてこのパワーですね。この若さでお店まで作って、頑張ったと思います。努力家なので。追求する姿勢があるので、だんだんうまくなっていくでしょうね」

 岡崎さんが絵付けの思い切りが良いと評価する渡辺さんのこけしは、5月に宮城県白石市で開催された全日本こけしコンクールでは、初の応募ながら東北森林管理局奨励賞を受賞しました。
 3年間にわたって着実に技術を身に着けてきた渡辺さんですが、修業中は焦りを感じる時期もあったと言います。
 渡辺あかねさん「中盤が一番焦りましたね。まだこれしかできないのって言われることもありましたし。その通りだなと自分で思ったりもしたんですけども、反省しても仕方がないというか時間をかけないとできないことだなということが分かって。こけし作りに生涯懸けて学んでいければいいのかなという気持ちに変わっていきました」

 渡辺さんが受け継いだのは技術だけではありません。お店を開いたのは、2025年に後継ぎが不在で閉店した衣料品店があった場所です。長年にぎわいを生み出してきた店主の思いを受け継ぎ、閉店が相次ぐ商店街に活気を取り戻すためにもこの場所での開店を申し出ました。
 総合衣料秋田屋元店主八鍬利惠さん「すごいうれしいっていうか、涙があふれて止まらなくなったんですね。私たちにとってはこけしというのは伝統的なもの、だんだん継承する方がいなくなってきている中で、あかねさんという存在はすばらしい。希望の光になっているんじゃないかと思います」

 渡辺あかねさん「いよいよだなという気持ちと、やっていけるかなという不安な気持ちも半々くらいであります。見た時に癒やされる気持ちであったり、ほっこりするような、そんな感覚が生まれるものを作っていきたい。ただそれだけですね」
 受け継いだ技術や思いに自分自身の色を重ねながら、鳴子温泉に息づく200年の伝統に魅了され遠く千葉県から移住した若きこけし工人の挑戦が、地域の未来を明るく照らしています。