3月16日の地震で、レールや駅舎などに大きな被害を受けた阿武隈急行です。宮城県の県南地域の住民の生活や観光を支えてきた阿武隈急行。5月下旬以降の全線再開へ向け、今も続く復旧作業の現場を取材しました。

 阿武隈急行の丸森駅。3月16日に福島県沖を震源とする地震で、ホームの石がずれたり沈下したりするなどの被害を受けました。
 阿武隈急行業務部岩本正男部長「ちょうどあそこの部分、赤いコーンの部分ですか、あそこがはみ出てますね。列車が通過する際に危ない状態だと」

ホーム、駅舎、レールなど115カ所に被害

3月16日の地震で大きな被害

 阿武隈急行で復旧工事の指揮を取る岩本正男さんです。
 宮城県柴田町の槻木駅と、福島県の福島駅の全長54.9キロを結ぶ阿武隈急行。被害は、ホームや駅舎、レールなどの鉄道設備115カ所に上っています。現在も全線で運転を見合わせています。
 復旧作業に当たる社員は岩本さんを含めてわずか15人。広範囲かつ多くの場所で被害が出たことで、復旧作業には時間がかかっています。
 阿武隈急行業務部岩本正男部長「特殊作業なんですよ。鉄道事業というのは、やはり限られた人数、人材がですね、限られています。熟練した人じゃないと難しい工事なので、人員確保というのは、重要なことでございます」

 現在は比較的被害が小さく、通勤・通学などでの利用客が多い槻木駅から福島県の梁川駅の間を優先的に作業していますが、その区間の復旧も4月下旬までかかる見通しです。
 阿武隈急行業務部岩本正男部長「運休をして通学・通勤、『あぶきゅう』利用者の方に多大な不便を来しているという状況にございます。そのことに対して、大変申し訳ないという気持ちがいっぱいでございます」

自然災害による被害が続く

2019年台風19号でも被害

 阿武隈急行が、自然災害で被害を受けたのは今回が初めてではありません。2019年10月の台風19号。強風によって架線が切れたり、線路に土砂が流れ込んだりするなど、50カ所で被害が発生しました。
 被害額は約11億円。自衛隊などの協力も得て復旧工事を行い、全線で再開したのは約1年後でした。2021年2月の地震でも一時運休しました。
 阿武隈急行業務部岩本正男部長「完了したと思ったらまた被害があった。その繰り返しが2回ほど続いているという状況でございます。珍しいですね、同じ鉄道で被害があるということでね、私もびっくりしています」

自然災害やコロナで苦しい経営が続く

全国の鉄道ファンから愛される

 1988年に開業した阿武隈急行。「あぶきゅう」の愛称で通勤・通学客だけではなく、全国の鉄道ファンからも愛されてきました。
 しかし、相次ぐ自然災害による運休に加えて、新型コロナの感染拡大で、2020年度の利用客数は157万人と2018年度の247万人に比べて大幅に減少しています。
 更に、2020年度末までの累積赤字が13億円を超えるなど、阿武隈急行の苦しい経営は続いています。

観光業者も全線再開を待ち望む

 阿武隈急行の全線再開を、宮城県丸森町の観光業者も待ち望んでいます。舟に乗って阿武隈川の景色を楽しむことができる、阿武隈ライン舟下り。50年以上の歴史を持ち、多い時には年間約2万7000人の観光客が利用しましたが、東日本大震災を機に激減。その後も台風の被害やコロナ禍で客足は戻っていません。

 こうした状況を打開するため、4月から11年ぶりに阿武隈急行のあぶくま駅から、丸森駅方面に向かって阿武隈川を下る「あぶくま駅コース」を再開する予定でした。
 丸森町観光物産振興公社横山博昭理事長「4月6日から開業しようと思った矢先、3月の16日に地震がありまして、『あぶきゅう』さんがストップしてしまいました」
 あぶくま駅にある船着き場を改修し、関東などから新幹線と阿武隈急行を乗り継いで訪れた観光客を誘致する狙いでした。

5月下旬以降の全線再開を目指す

宮城・丸森町の観光に不可欠

 町の観光に欠かせない阿武隈急行。
 丸森町観光物産振興公社横山博昭理事長「やはりなくてはならないものだと思いますね。このおかげで、やはり交流人口だったりも、電車を使ってくるお客さんも結構ありますから、安全に作業していただいて、早く開通してもらえればなと思っています」
 全線再開は5月下旬以降の見込み。
 阿武隈急行業務部岩本正男部長「何せ自然災害ですので、それに立ち向かって頑張るということで、一丸となって対応しております」

 阿武隈急行は13日、18日から宮城県の槻木駅と丸森駅の間で、25日から丸森駅と福島県の梁川駅の間で運転を再開すると発表しました。
 全線の再開は、5月下旬以降の見込みです。