宮城の海の異変についてです。近年、温暖化の影響でチダイやタチウオなど暖かい海にすむ魚が定着しつつあります。不漁のサンマなどに代わる新たな漁業資源として活用しようと、チームで取り組む水産加工業者を取材しました。

 18日。石巻漁港に水揚げされた魚。この日は、底引き網漁の船と定置網漁の船、計13隻が入港し石巻発のブランド、金華サバなど約20トンが水揚げされました。
 「これチダイですね。チダイ、チダイ、これもチダイ」
 競りにかけられた魚の中には、チダイやタチウオ、サワラ、トラフグなど、宮城の海では見慣れないものも。

断水系の魚の水揚げが増える

 地球温暖化の影響で、三陸沖の1月から3月の平均海水温は年間で1.22℃も上がっています。海水温の上昇に伴い、水揚げされる魚の種類が変化しているのです。
 石巻魚市場佐々木茂樹社長「ここ4、5年特にですね、暖水系の魚、サワラとかチダイとかタチウオとか、ワタリガニとかですね。そういったものが多く水揚げされるようになって」

 これまで宮城県の三陸沖を代表する魚種だったサンマやサケ、スルメイカなど、冷たい海に生息する魚の水揚げが減少。一方で、あまり見られなかった暖かい海にすむ魚の水揚げが増えています。
 石巻魚市場佐々木茂樹社長「関係者もちょっと戸惑ってはいたんですけれども、ここ最近、定着しつつありますので、市場に水揚げされた魚を買受の業者の方に高く買ってもらって、付加価値をつけて販売してもらいたいと思っています」

断水系の魚を加工し商品価値を高める

 今後の課題は、単に鮮魚として出荷するだけではなく、加工して商品価値を高め、より高値で販売することです。
 石巻市の水産加工業者、山徳平塚水産。サバやサンマ、イワシの煮つけやおでんなどをレトルト食品に加工して出荷しています。
 山徳平塚水産平塚隆一郎社長「(サンマは)ここ3年くらい不漁続きで、豊漁の期待は薄いという感じなので、原料の確保が相当困難になっていますね」

チダイの加工でサンマの不漁を補う

  全体の売り上げの2割を占めていた主力のサンマの漁獲量が激減。売り上げの減少を補うため注目したのが、暖水系の魚チダイです。半年前からチダイの加工に取り組んでいます。
 チダイはタイの一種。体長は30センチから40センチほどと小ぶりで、加工品の原材料に適しているのが特徴です。
 山徳平塚水産平塚隆一郎社長「県の研究所の方から試作品作ってみたので試食してくれないかということで、試食してみたら本当にタイの味がするので、これが増えてきているのであれば取り組んでみる価値はあるんじゃないかなということで」

 しかし、新たな魚種の加工に取り組むのは簡単なことではありません。
 山徳平塚水産平塚隆一郎社長「やっぱり原料の確保っていうのが一番問題で、ずっと安定的に毎年獲れていれば良いんですけれども、ここ数年急に増え出していて今季もその通りに獲れるのかっていうのがはっきり分からないところがあるので」

 漁獲量が見通せないことへの不安から、地元の加工業者は暖水系の魚種が多く水揚げされるようになっても、なかなか加工に取り組めずにいました。
 そこで、山徳平塚水産は自社だけではなく複数の業者と協力して、チダイの加工に挑戦することにしたのです。

 震災をきっかけに、工場や販路を失った山徳平塚水産など地元の加工会社10社が2013年に石巻うまいもの株式会社を設立。
 お互いの加工技術やアイデアを生かして、新商品の開発に取り組んできました。

チダイの鯛茶漬け

 暖水系の魚への挑戦の第一弾として9月から発売するのが、石巻で取れたチダイをレトルト加工した商品、鯛茶漬けです。
 加工はレトルト食品加工のノウハウを持つ山徳平塚水産が担当し、味付けやパッケージのデザイン、販売先などはアイデアを出し合って決めました。
 石巻うまいもの株式会社佐藤芳彦会長「1社でやろうとすると1社だけのリスクになってしまうんですよ。それを大量に市場から買って、数社で分け合って違った製品化ができるんですね。同じ原料で」

 それぞれの会社が持つ既存の設備や販路を活用することで、新商品開発にかかる費用や手間を大幅に削減することができます。
 石巻うまいもの株式会社佐藤芳彦会長「お互いの知らない知識といったものが聞こえてくるんですね、こうやって会議すれば、仕入れは大量に仕入れられて、製品が何種類かの製品が作れるっていったメリットが一緒にやるとできてくる」

 温暖化による海の変化に、一丸となって取り組む。震災を乗り越えた加工業者たちの次の挑戦が始まっています。
 山徳平塚水産平塚隆一郎社長「あらがうことができない自然の変化ですから、その代わりに出てきた魚種に対して、それにチャレンジしていくっていうのはどうしても必要なので。環境に柔軟に対応していかないと生き残っていけないかなと思いますね」