宮城県石巻市の離島、網地島を舞台に震災から立ち直る兄弟を描いた映画が10月に公開されます。監督は石巻市出身の男性です。監督や出演した島の人たちの映画に込めた思いです。

 9月30日。仙台市青葉区で映画の試写会が行われました。タイトルは「さよならほやマン」。試写会には映画のキャラクター「ほやマン」も登場し会場を盛り上げました。

 映画は、東日本大震災で被災し心に傷を負う若い兄弟の葛藤をホヤの生態になぞらえて描いています。監督を務めたのは石巻市出身で、この作品が長編映画デビューの庄司輝秋さん(43)です。

 なぜ「ほやマン」なのか。その意味を舞台あいさつで語りました。
 庄司輝秋監督「(ホヤは)実は卵で産まれて小さい頃は元気に泳ぎ回るけど、ここでいいか俺こんなもんかと決めるとそこで背骨と脳ミソが無くなって(1つの場所で)生き続けると知って、人間みたいだなって」

 撮影は全て、石巻市の網地島で行われました。映画では、津波で両親を亡くしながらも網地島で漁師を続ける兄アキラと軽度の障害がある弟シゲルが、東京から島を訪れた人気漫画家、美晴と共同生活を送る中で、自分を見つめ直していきます。
 テーマは「家族の再生」であり「震災からの再生」でもあります。

石巻市の網地島でロケ

 作品の中では、網地島の自然や人々の生活がノスタルジーを感じさせる映像で映し出されます。
 試写会には100人以上が訪れ、じっとスクリーンを見つめました。
 「思っていたよりもすごい感動しました」「(震災後)夜飛び起きたりとかもあったので記憶がよみがえって。その当時石巻市に住んでいたのでちょうど舞台と近いところがあったので、心にかぶる部分があって感動しました」「(震災から)直ってきたことにみんな慣れ始めてきたので、改めて映画を観ることによって個の復興というか自分の気持ちが少し整理ついたような気がします」
 庄司輝秋監督「(震災は)すごく難しいテーマだと思いますし、同時にそれを暗く描きたくないなと思っていたので、笑っていただけたらとてもうれしいなと思っていたので、皆さんの明るい顔を見て作って良かったなと思っています。ありがとうございます」

 映画の舞台となった網地島は周囲20キロほどです。200人余りが生活し、ほとんどの住民が漁業に従事しています。
 「東北のハワイ」とも呼ばれ、白い砂浜と透明度の高い海を目当てに夏には多くの海水浴客が訪れます。

 網地島で生まれ育ち、40年以上郵便局に勤める高橋秀一郎さんです。映画制作にも協力し、震災後に人口が減った島に映画がきっかけで多くの人が訪れることを期待しています。
 網地島郵便局高橋秀一郎局長「島の活性化につながっていただければという思いはかなり強いですし、ここに来る人たちは五感で感じてほしいなと思ったり、海であったり、山であったり自然豊かですから」

 主人公の父親の漁師を演じたのは、澤口佳伸さん(43)です。澤口さんは、仕事や人間関係などで悩んでいた時に、網地島を訪れました。島に魅せられた澤口さんは、漁師になることを決意し宮城県大崎市岩出山から移住しました。
 澤口佳伸さん「島民の人たちにはお年寄りが多いということで、何か力になれればと思って移住しました。島でお年寄りたちが映画の撮影が始まったねとか、活気が無かったのがスタッフとかみんな来てくれることで、みんなまた笑顔になれたかなというのはありますね。信号も無い。コンビニも無い。自分を見つめ直すには最高の場所だと思います」

映画に込めた思い

 庄司監督にとっての網地島とは。
 庄司輝秋監督「網地島はやっぱり前向きになれる場所ですね、僕にとって」
 石巻市で生まれ育ち、震災で実家が被災。思うような作品が作れず、もがき苦しんだ後にふるさとを題材に映画を制作した庄司監督、この映画で感じてほしいこととは。
 庄司輝秋監督「自分ってこんなものだろうと、だんだん人間て思っていくと思うんですけど。もがかない方が楽なので。でも本当はもっとやりたいことってあるんじゃないかって、もう一度思ってもいいんじゃないかってこの映画を観た時に思ってもらえたらうれしいなと思います」

 「さよならほやマン」は11月3日から、イオンシネマ石巻など宮城県の7館を含む全国50の映画館で上映されます。