タイでは、ミャンマーなどからの難民がおよそ8万人、国境地帯の難民キャンプで生活しています。難民が自立する大きな壁である就労の問題を解決しようと、タイ政府は10月から働く権利を与える取り組みを始めました。いまの難民の生活、そして思いは。部外者立ち入り禁止のキャンプを取材しました。
首都バンコクからおよそ500キロ。厳重な検問を越えた先にその場所はありました。
ミャンマーとの国境からおよそ10キロほどの場所にあるタイ最大規模の難民キャンプ、メラ難民キャンプです。
ここでは、ミャンマーから国境を渡ってきた少数民族・カレン族の人たちを中心に3万人近い難民が暮らしています。部外者は中に立ち入ることはできません。
今回、私たちは関係者の協力を得て、キャンプ内の様子を撮影することができました。
キャンプの中には1つの社会が形成されていました。肉を売る店もあれば、生活用品、衣類を売る店もあります。混み合う市場の中をバイクが通り抜けていきます。
学校もあります。制服を着た子どもたちがボールを使って遊ぶ様子も映っていました。カメラの存在に気が付き、笑顔を振りまきながら飴をなめる少年の姿も。彼らは、キャンプの外に自由に出ることはできません。
「自由な心は、何者にも打ち砕けない(A FREE MIND CANNOT BE DESTROYED)」キャンプの中には、こんな言葉が掲げられていました。
1984年、国境地帯での戦闘を受けて避難してきた少数民族たちのために作られたメラ難民キャンプ。2021年に国軍によるクーデターで軍事政権となり、情勢が不安定なミャンマーからは今もキャンプにたどり着く人が後を絶たないといいます。
しかし、キャンプの暮らしも問題は山積みです。特別に、3人のカレン族の住人に話を聞くことができました。
カレン族の難民女性(50代) 「メラ難民キャンプには2010年に来たと思います。紛争から逃れてキャンプに来ました」
カレン族の難民女性(30代) 「私はキャンプで生まれました。両親は紛争から逃れてキャンプに来ました」
カレン族の難民男性(60代) 「私は子どもが8人います」
キャンプの中で生まれた子どもたちも多くいます。
カレン族の難民男性(60代) 「キャンプの子どもたちの多くは学校に通っています。通わない女の子は裁縫をし、男の子は職業訓練としてお菓子作りを学んでいます」
カレン族の難民女性(30代) 「授業料は高くないですが、それでも払えない人もいます」
キャンプ内で物や食材を買うためにもお金は必要です。一体、彼らはどうやって収入を得ているのでしょうか。
カレン族の難民女性(50代) 「私は(キャンプ内で)カレンヌードルを売って生活をしています。時々、第三国にいる娘が送金してくれます。外に働きにいくことはなく、家で仕事をしています」
カレン族の難民男性(60代) 「キャンプの人々は森で野菜をとって、コミュニティーで売って生活しています。森からヤムイモ、タケノコ、季節の野菜をとって売ります」
カレン族の難民女性(30代) 「外に出るにはキャンプパス(外出する証明書)を申請しなければなりません。キャンプパスを取得するには200バーツかかります」
キャンプの外で働くのは困難を極めます。それが自立を阻む大きな問題の一つとなっています。
カレン族の難民男性(60代) 「私は日雇い仕事で収入を得ています。キャンプの外で働いています」
一方で収入はというと。
カレン族の難民男性(60代) 「1日約150バーツです。合法的に仕事の機会が与えられれば、もっと稼げます。体が健康であれば外で働きたいです」
こうした状況を変えようと、今月、タイ政府は難民が国内で働くことができるよう許可を与える取り組みを始めました。
すでに労働が可能とされる18歳から59歳の1万2000人近くが働く意思を示しているといいます。
カレン族の難民女性(30代) 「働きたいので、これはいいことだと思います。子どもの世話をしなければならないので仕事が必要。野菜を売ってキャンプで暮らしているだけでは進歩がないと思います」
勤務先の候補は、労働力不足の問題を抱えているサトウキビ農園など農業の仕事や建設、漁業関係などです。
政府は年内にも就労開始を見込んでいて、最大1万2000人に仕事を提供できるとしていますが、課題もあります。
UNHCRタイ事務所 タミ・シャープ代表 「難民はカレン語とカレンニー語の2つが主要言語で、その言語で学校教育を受けています。今後の最大の課題の一つはタイ語の習得とタイの文化を理解することです」
それでも難民を支援してきた国連機関は期待を寄せます。
タミ・シャープ代表 「キャンプの中で生活してきた難民たちは孤立した環境で暮らしてきました。しかし、これからは外へ出始めることになります。世界的に難民の就労を認める国が増えるなか、タイもその仲間入りを果たします。多くの子どもが自分の将来の夢を描けるようになるでしょう。医者、弁護士、教師、起業家など『何になれるのか』を考えられるようになります。働き盛りの大人たちが援助に頼っていることで自立心や自尊心を損なってしまうこともあります。そのように感じている大人たちにとって、これはチャンスなのです。そしていつかミャンマーに平和が戻った時、難民たちは祖国再建に貢献できるでしょう」
世界には、紛争や迫害によって故郷を追われた1億2000万人を超す難民や国内避難民らがいます。就労は、難民たちが自由に生きられる世界への第一歩です。
カレン族の難民女性(30代) 「高校を卒業したら(子どもを)キャンプの外のもっと良い学校に通わせたいです」