「甲子園の土を持ち帰らなかった」そのエピソードが、仙台育英・田山纏のプロへの意志を雄弁に物語る。プロでこの場所に戻ってきたい、だから土はいらない――。田山の高卒プロ入りの可能性について、プロ野球解説者の江尻慎太郎氏に聞いた。
◆大舞台でのフルスイングは「才能の証明」
この夏の甲子園でベスト8入りした仙台育英。そのチームで主砲として活躍した4番・田山纏。1回戦・札幌日大戦では、フルスイングで豪快なホームランを放つなど、非凡な才能を垣間見せた。準々決勝敗退後、「プロ志望届、出します」と明言。その視線はすでに次のステージを見据えている。
江尻氏がまず強調したのは、田山のフルスイングという武器の希少性だ。
「バッターは当てたいので、どうしても合わせに行きたくなってしまうもの。ジュニアの世代、U-12日本代表コーチを務めた際、失敗してもいいからフルスイングしなさいと言っても、できる選手はものすごく少なかった。日本代表に選ばれるような選手でもなかなかできない」
その難しさは上のレベルになるほど増すという。失敗が怖い、合わせたいという本能に打ち勝つことが求められるからだ。そんな中、甲子園という大舞台で、フルスイングを貫いた田山については、「自分の気持ちの中で整理ができていること、そのスイングを生み出せる体の強さがある」と評価した。ホームランの飛距離も含め、スカウトへのアピールとしては「十分」との見方だ。将来像としては、ソフトバンクホークスの柳田や楽天イーグルスの浅村のように「バットを振れる選手」へ成長する可能性を感じるとも述べた。
◆「高卒外野手」という歴史的な壁
しかし、江尻氏はネガティブなポイントも率直に指摘する。それは「外野手」というポジションだ。
「外野でスタートすると次に守る所がないんです。そうなるとDH・ファーストでホームランを30本打つ外国人選手と競うことになる。まずドラフトで優先されるのは、ショートとか先発投手。試合の中で〝動く〟ことが多い選手が重宝されます」
先発投手は1試合で100球を投げ、ショートは多くの打球処理に関わる。「高校生野手で指名されるとすれば、ショートですごく動けてホームランが打てる選手。まずはこういう選手が優先される」というのがプロのロジックだ。歴史を振り返っても、ドラフト上位で指名された外野の高卒選手は「非常に少ない」と江尻氏は言い切る。過去5年間のドラフトを見ても、支配下で指名された360人のうち、高卒外野手はわずか13人。田山はまさに、その狭き門に挑む立場にある。
◆指名の鍵握る「打球速度」
では、上位指名の可能性はゼロか。江尻氏は興味深い視点を付け加えた。
「プロ野球はもっともっとデータ分析が進んでいる。田山選手が放っている打球の平均速度、このあたりが指名に関わってくる。そのデータを私は見ていないが、プロの12球団は持っているはずです」
打球速度が速い選手が、最も得点を生み出すという相関性は、既に明らかになっている。もし田山の打球速度が、高校生の中で群を抜いているというデータがあれば、「上位に食い込む可能性もある」と江尻氏は述べた。
一方、下位指名についても楽観はできない。「全体で80人ほどが指名されるとして、下位の40人は数百人の母数から選ばれるはず。下位の評価ということは、ライバルも大量にいるということ」。下位=可能性が広いように見えて、実はライバルの母数も跳ね上がるという逆説的な厳しさがある。
◆万が一指名されなくてもチャンスはある
甲子園の土を持ち帰らなかったエピソードについて、江尻氏は「非常に前向きで、買ってあげたいなという思いが僕にはある」と語った。
「チャンスは今年だけではない。プロへの気持ちを持ち続けることが何より大切」
仙台育英の卒業生が、東京六大学野球や社会人の舞台で、日本のアマチュア界をリードしている事実にも触れ、「万が一指名されなかった場合でも、次の舞台で日本の球界を引っ張るんだという思いを持ってほしい」と田山へエールを送った。
プロ12球団が握る打球速度データが、評価の分岐点になる可能性がある。その数字が何を示すのか。答えは10月22日のドラフトで明らかになる。
江尻慎太郎 宮城県仙台市出身の元プロ野球選手。2001年ドラフト自由獲得枠で日本ハムに入団。最速153キロを誇る右腕として、先発・中継ぎなどで活躍。DeNA、ソフトバンクと渡り歩き、2014年に現役を引退。現在は、アスリートマネジメント事業などを手掛けるAcroBats株式会社の代表取締役を務める一方、khb東日本放送のプロ野球中継で、解説者としても活躍している。
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