地球温暖化による海水温の上昇が、ギンザケやワカメの養殖に影響を与えています。漁業関係者は、養殖の方法を変えたり、品種を改良したりして海の変化に対応しようとしています。

 岩手県遠野市。山あいにある直径20メートルのいけすで育てられているのは、1万2000匹のギンザケです。飼育しているのは宮城県石巻市の養殖会社、大丸カイエイ。一般的なギンザケの養殖は海で行われますが、こちらの会社では、沢から水を引き陸上のいけすで養殖しています。
 大丸カイエイ大森博行社長「陸上養殖は、海面養殖と違い水温の大きな変化が少なく、夏場の高水温もなく、冬場の低水温もなく、魚にとって生育するのに適した温度帯で飼育できるというメリットがあります」

沢から水を引いたいけすでギンザケを陸上養殖

ギンザケを陸上のいけすで養殖

 ギンザケは16度前後の水温を好み、21度を超える高水温では生育に適さないとされています。これまで海での養殖は、海水温が下がる10月中旬から始まり、翌年3月から8月中旬にかけて水揚げされてきました。
 しかし近年、地球温暖化の影響で海水温が上昇。三陸沖の平均海水温は、過去40年で1.5度上がっていて、ギンザケを養殖できる期間がこの10年で1カ月ほど短くなっているのです。
 大丸カイエイ大森博行社長「漁師さんもどうしたら良いんだろうと、やはり問題意識は高いですね。何年先になるか分からないけど、最悪(養殖が)できなくなる。そういった漁場も出てくるのではないかと心配しております」

陸上養殖のギンザケ

 こうした中、大丸カイエイが10年ほど前にいち早く始めたのが、ギンザケの陸上養殖です。いけすの水として使用する沢の水温は、夏場でも17度から18度と安定していて、ギンザケの養殖に適しています。
 岩手県遠野市で4月から養殖を始め、ある程度大きくした後、宮城県南三陸町にある施設に移して再び養殖。こちらでは、水温が安定した地下水をくみ上げて使用し、8月から11月にかけて出荷します。

 輸送費や電気代などがかかるため、価格は海での養殖と比べ4割ほど高くなりますが、夏以降も出荷できるため需要は高く、年間約20トンを出荷しています。良質な餌を使用していて味も良いということです。
 大丸カイエイ大森博行社長「人の力では到底及ばない自然の力なので。対応するように考えて、工夫してやっていきたいと思っております」

暑さに強いワカメの開発

ワカメの芽落ちに苦悩

 漁業が直面する地球温暖化による海水温の上昇。水産業のまち、宮城県気仙沼市でもその対応が進んでいます。
 県水産技術総合センターの成田篤史さんです。成田さんのチームが6年前から取り組んでいるのが、暑さに強いワカメの開発です。ワカメは暑さに弱いため、海水温が22度を超えると幼い芽が成長前に弱って養殖ロープから外れる芽落ちが起きやすくなります。
 県水産技術総合センター気仙沼水産試験成田篤史さん「今の漁場環境は、ワカメの養殖をするには非常に難しい状況になっている」

 気仙沼沖の平均水温をまとめたグラフです。年によりばらつきはあるものの、50年間で見ると0.93度上昇。2021年は、過去最高となる15.3度を記録しました。

 三陸沖は、日本最大のワカメの産地ですが、漁業者たちは、芽落ちの被害に頭を悩ませています。
 気仙沼市のワカメ養殖業者「10年前と比べて、同じ時期に同じことをやったのではワカメの種が全部死んでしまう。(養殖時期を)20日間ずらすことで少し水温が下がった時に芽を出させる。それでも芽落ちが多くはなってきてます」

試験的な養殖に成功

 センターでは、宮城や長崎など全国約50の海域からメカブを集め、暑さに強い系統を調査。すると、気仙沼沖、秋田沖、対馬沖の3つの系統が26度の高水温に耐性があることが分かったのです。
 成田さんらは、これらを大きく成長する他の系統と掛け合わせ品種改良。2021年9月、完成した系統が水温が高い海で実際に成長できるのか、試験的な養殖に挑戦しました。
 その結果、多くは芽落ちしたものの、海に出した数百株のうち5株が定着し、2メートルほどに成長させることに成功しました。

 県水産技術総合センター気仙沼水産試験成田篤史さん「周りのワカメと遜色ないそれなりに大きいワカメができたので、希望の種になれば良いなと思っております」
 今後は、品質や収量を安定させるため更に品種改良と海での試験養殖を重ね、2023年度以降の実用化を目指します。