宮城の海の異変についてです。静かに進む海の酸性化により、将来、カキやホタテなどの貝類が養殖できなくなると言われていて、水産業の町、南三陸町でも調査が始まっています。

 南三陸町で環境調査を行っている一般社団法人サスティナビリティセンターの太齋彰浩さんです。太齋さんが志津川湾で調べているのは、海の酸性化についてです。
 一般社団法人サスティナビリティセンター太齋彰浩代表「人間活動で出る二酸化炭素が今どんどん増えてるわけですけど、それが海に溶け込んでですね。海水がアルカリ性から酸性に近付いていくっていう現象ですね」

海の酸性化を調査

 海は、弱アルカリ性の性質を持っていて、海面では大気中の二酸化炭素が反応して海に溶け込む現象が起きています。
 二酸化炭素は溶けると弱い酸性を示しますが、近年の社会活動の活発化や森林の伐採により大気中の二酸化炭素の量が激増。海の吸収量も増え、酸性に近付いているのです。

 気象庁によると2020年、海が吸収した二酸化炭素の量は29億トンと過去20年で2倍近くに増加しました。
 値が小さいほど酸性に近づいていることを示すpHでは、海水は約8.1とされています。
 日本近海のpHの分布では、1998年はアルカリ性寄りの濃い青色が目立ちますが、時間を進めると徐々に酸性寄りの緑色や黄色が広がっていることが分かります。
 日本近海のphは、1998年から2021年にかけて、10年当たり0.02のペースで下がり続けています。
 一般社団法人サスティナビリティセンター太齋彰浩代表「二酸化炭素の排出が止まらなければ、酸性化はどんどん進んでいきますので。将来予測で言うと、今世紀末ぐらいにはかなり危ない状態になるというのは分かっている」

カキの養殖にも影響

 静かに進む海の酸性化。将来、海の生き物に深刻な影響を与えると懸念されています。
 南三陸町戸倉地区で、20年近くカキの養殖をしている後藤伸弥さんです。海の酸性化がカキに及ぼす影響を心配しています。
 後藤伸弥さん「この白いものが全部卵です。ちょうど今からカキの種を取るシーズンになるんですけど、海洋酸性化が進むとカキの幼生が育たなくなって、カキの種を取ることができなくなるということは養殖できなくなることにつながっていく」

 カキは夏に産卵し、生まれた幼生がホタテの貝殻などに付着して1年から3年ほどかけて成長します。
 この時、カキの幼生は炭酸カルシウムの殻を作りますが、海が酸性に近づくと殻が溶けてしまい、うまく成長できず死んでしまうと予測されているのです。

 年間160トンものカキを出荷する戸倉地区。海の酸性化の影響はまだ見られていませんが、後藤さんは、地域の生業を守ろうと今できることを模索しています。
 後藤伸弥さん「影響が出てきてから対策するのでは絶対に遅いと思うので、今からそういう勉強だったり、何かやれることがあればご協力してたりってするのが継続的な漁業をやっていくために必要なのかなと思っています」

志津川湾で海水の調査

 サスティナビリティセンターの太齋さんは、2020年から志津川湾のカキの養殖場や河口付近など5カ所で、海水のpHのモニタリング調査を始め、酸性化の進み具合を調べています。
 一般社団法人サスティナビリティセンター太齋彰浩代表「大体、結果を見ると8前後ですよねpHが。8は弱アルカリ性。海の一般的な値と言っても良いと思うけど、たまにちょっと落ちる所がある。7.6とかが一番低いですかね」

 海の酸性化に詳しく、志津川湾の調査にも参加している国立研究開発法人水産研究・教育機構の小埜恒夫さんは、pH7.6はカキの幼生にとって危険な値だとして、遠くない将来に影響が出始めると指摘しています。
 国立研究開発法人水産研究・教育機構小埜恒夫さん「今後、数十年くらいのスケールで、だんだん危険なpHになる期間が長くなってきたり、回数が増えたりということが少しずつ進んでいくということだと思います。
最終的に100年ぐらい経った後ですね。いつ生まれた幼生であっても、全部危なくなってしまうということになってしまうと思います」

 小埜さんは、二酸化炭素自体の排出量を減らすことに加え、海の酸性化の原因の一つとされる河川から流入する有機物の量を減らすなど、今からできる対策はあると話します。
 国立研究開発法人水産研究・教育機構小埜恒夫さん「海の中に溶けている物の量が増えたり減ったりするっていうのは見えないんですよね。その結果として生き物に何か異常が生じて初めて、あ、こんなことが起きていたんだということに気が付くというのが、これまでのありとあらゆる公害がそういった形で起きていると思うんですよ。まだまだ、対策をする時間はありますし、対策を取れば、必ず有効に働くだろうと思います」