12年ぶりに宮城県名取市閖上地区で開かれた夏まつりで、オープニングを飾った閖上太鼓。震災に直面しながらも、伝統を守ろうと活動を続けている男性の思いを取材しました。

 7月20日、閖上太鼓保存会のメンバーが夏まつりでの演奏に向け、練習に励んでいました。代表の三浦勝治さん(43)です。小学生のころから太鼓に打ち込んできた保存会の中心的存在です。
 閖上太鼓保存会三浦勝治「大きい太鼓を打ったりとか、そうするとみんなからすごい声援をいただいて、あれが閖上というか名取の夏まつりの醍醐味だったんじゃないかな」」

閖上地区に伝わる閖上太鼓

 大漁の喜びを歌と太鼓で表現する閖上太鼓。この伝統文化を後世に伝えようと、1992年に地元の有志によって保存会が発足。地域のイベントや福祉施設などで披露してきました。

 震災で754人が犠牲になった閖上地区。保存会の会長ら2人も亡くなりました。更に、演奏で使っていた衣装は流され、太鼓は手入れができず傷んでしまいました。存続の危機を迎えた閖上太鼓。
 閖上太鼓保存会三浦勝治さん「震災当初、(太鼓のことは)全く考えられなかったですね。仲間もバラバラだったので」

 そんな時、支援が寄せられました。全国の太鼓団体などから太鼓の補修費として約300万円、海外のNGOからは衣装が届きました。支援を受け、復活した閖上太鼓。

後継者不足に直面

 2022年で発足30年となる閖上太鼓保存会。11人いるメンバーの多くが40代以上で、後継者不足に直面しています。
 閖上太鼓保存会三浦勝治さん「私も40代になってこれから誰かに引き継いで、この太鼓を40年50年続けていってもらいたいなと思うので、太鼓をやってくれる若い人を(見つけたい)」

 三浦さんたちは閖上太鼓の後継者育成のため、小中学生向けの太鼓教室を始めました。参加しているのは約40人。
 参加している小学生「お祭りで見てやってみたかった。音が響いたりするから楽しい」「続けられるなら続けていきたいです。大人になっても打てたらみんなに格好良いって言われると思うので」

 閖上太鼓の未来の担い手。
 閖上太鼓保存会三浦勝治さん「楽しそうにやってくれてるなあって思いながらやってます。こうやって一緒に触れ合ってやっていく中で、頼もしいなと思っています」

 3日、保存会のメンバーたちが、最後の練習を行っていました。なとり夏まつりは、毎年閖上地区で開かれていた名取市の夏の風物詩です。震災後は、約4キロ内陸の美田園地区に会場を移し、開催されてきました。2022年は12年ぶりに閖上地区での開催が決定。閖上太鼓保存会が、そのオープニングを飾ることになりました。
 閖上太鼓保存会三浦勝治さん「昔から残る伝統として、私たちの太鼓をこれからも残していってそれが町の音になれば良いなと。閖上の太鼓の音を聞いたら、夏が来るんだなと地元に帰って来たんだなとそう思ってもらえるような太鼓を打っていきたい」

 閖上地区には震災前に約7100人が暮らしていましたが、現在は3000人ほどにまで減少しています。かさ上げして造成された居住エリアに住む世帯の約半分は、地区の外から引っ越してきた新しい住人です。
 昔からの住人と新しい住人。三浦さんは、夏まつりの太鼓を通じて、その両者をつなげたいと考えています。
 閖上太鼓保存会三浦勝治さん「お住まいとか公民館とか、いろいろなものができましたけど、やっぱり人と人のつながりというのはこれからなのかなと。そのつながりの中の接着剤じゃないですけど、そういったものに私たちの太鼓が少しでも役に立てれば良いなと思っています」

なとり夏まつりでのステージ

 6日。閖上地区になとり夏まつりが帰ってきました。
 閖上太鼓保存会「12年ぶりの閖上での夏まつり。とにかく楽しんでいきましょう!お願いしまーす!」

 披露したのは、漁師町として栄えたかつて閖上の姿を今に伝える閖上大漁太鼓。
 震災を乗り越え、響き渡る復興の太鼓。12年ぶりに閖上で開かれたなとり夏まつりの始まりを告げる大役を成し遂げました。
 閖上太鼓保存会三浦勝治さん「朝からわくわくして楽しみにしていたんですけど、お客さんの前で演奏できたのがうれしかったし、何よりも皆さんが笑顔で手拍子をいただきながら一体になってできたことが良かった。地元の、地域の音として太鼓を続けていきたい」