宮城の海の異変についてです。海の中で海水温の上昇による変化を見てきました。更に、近年水揚げが増えているタチウオ漁に同行しました。環境の変化に対応する漁業の最前線です。

 鈴木奏斗アナウンサー「では、行ってきます!」
 私が潜ったのは8月の女川湾、そこには宮城の海で見られる様々な魚の姿がありました。その中に、見慣れない南の海の生き物たちが。

 体長80センチほどのコブダイ。海が暖かくなったことで、冬を越えて大きくなったそう。南日本に生息するタカノハダイは、女川の海で初めて見られました。他にも暖かい海の生き物が、宮城の海にすみ着いていました。

 更に、今まで見られなかった珍しい光景が。ロープに付いていたのはアオリイカの卵。主に南の海に生息するイカです。
 周りを泳いでいた小さな魚も沖縄の生き物。ダイバーの高橋さんも初めて見る光景だと言います。
 ダイバー高橋正祥さん「前年、初めてアオリイカ見たんですよ。女川で初めて見て、産卵は初めて確認できましたね。和歌山とか静岡とかあっちの方がメインでいる生き物だと思うんですけど、こっちにはアオリイカ元々いなかったので」

海中で見る海の異変

 変化は他にも。岩場のあちこちで見つけたのはマダコ。これまでも三陸沖で見られてきましたが、その数が異常に増えていると言います。
 ダイバー高橋正祥さん「タコは、いつもだと7月末から8月ぐらいから産卵するんですけど、水温が高いせいか3月からずっと産卵しているんですよね。三陸のタコってアワビを食べるので、アワビが減ってきているということがあると思います。漁師さんたちの影響があるのかなと思いますね」
 鈴木奏斗アナウンサー「この豊かな三陸の海をどうしたら未来につないでいけると思いますか?」
 ダイバー高橋正祥さん「10年前の海と全然全く変わってきているなという印象がありますね。今の現状を僕たちが見続けて、子どもたちに次の世代にどう伝えていくかが大事」

 生き物が変化した要因の1つが海水温の上昇です。三陸沖の夏の最高水温は10年前と比べ3℃から4℃上がっていて、暖かい海の魚がすみやくなっています。

 変化は漁業にも。石巻市の漁師、阿部誠二さんです。この日、狙っていたのは。
 阿部誠二さん「おいさ!お、サイズ良いね~」
 まるで刀のように銀色に輝くタチウオ。次々と水揚げされていきます。タチウオは、体長が最大で150センチほど。暖かい海水を好み、主に西日本で漁獲されている高級魚です。

水揚げが増えるタチウオ

 宮城県でのタチウオの水揚げ量は、10年ほど前はわずか1トンとほとんどありませんでしたが、ここ数年で急増。2021年には506トンと、500倍に増えました。
 阿部さんは元々、ヒラメ漁が中心でしたが海水温の上昇で漁獲量が減ったため、5年前にいち早くタチウオ漁に切り替えました。
 阿部誠二さん「(魚種の)変化のスピードが速すぎてかなり過渡期だと思っているので、そこにうまく乗っていこうと仲間内でも話します」

 阿部さんの漁には、魚の価値を上げるこだわりがあります。阿部さんの漁法は、約20本の針を付けた仕掛けで釣り上げる引き縄漁。船をゆっくりと走らせながら、釣り糸を引いて魚をとる方法です。

 タチウオは一般的に定置網などで一度に大量に引き上げるため、網の中で魚が擦れ表面に傷ができてしまいます。阿部さんは、魚体を傷つけないよう1匹ずつ丁寧に引き上げています。網に比べて一度に獲れる量は少なくなりますが、タチウオを傷つけずに捕獲できます。

 工夫は他にも。
 阿部誠二さん「脳締めといって暴れないように動かなくする」
 魚の頭部にピックを刺して脳死状態にする脳締めは、鮮度を保ちおいしさを維持するために欠かせない作業です。
 阿部誠二さん「タチウオはうろこがあるわけではないので、傷つきやすいし魚も生き物なのでストレスも感じる。ストレスを感じさせないうちに締めると身質が保たれる」

変化に対応

 更に、鮮度を保つため船の上で箱詰めします。品質にこだわった阿部さんのタチウオは、市場でも評判です。
 仲買人「彼のタチウオは、石巻魚市場に並ぶタチウオの中で一番相場が付いていますね。
きれいが1つ、おいしいが1つ、クオリティが一定している」
 一般的なタチウオが1キロ2000円から3000円で取引されているのに対し、阿部さんのタチウオは1キロ6000円の値が付くほど。
 環境の変化に対応しながら、取れる魚の価値を最大限に高めます。
 漁師阿部誠二さん「漁師はやることが1つで魚に合わせるということなので、色々な情報を取り入れながら来てくれる魚に対応していこうと仲間内でも話しますし、後輩たちにも伝えていければ」