宮城の海の異変についてです。地球温暖化に伴う海水温の上昇によって、志津川湾で行われているギンザケの養殖にも影響が出ています。冷たい海にすむギンザケに特別な餌を与え、暖かい海にも耐えられるようにする新たな取り組みが始まっています。

 1日、南三陸町の波伝谷漁港では、今シーズンのギンザケの養殖が始まりました。波伝谷漁港では30年以上にわたって、志津川湾の3キロほど沖合のいけすでギンザケの養殖が行われています。
 例年10月下旬に、陸上で育てた150グラムほどの稚魚を沖合のいけすに放流。魚粉を固めて作った餌をやり、1.5キロほどまで育てます。
 そして、翌年の3月から8月にかけて水揚げし県のブランド魚、伊達のぎんとして全国に出荷します。

ギンザケの養殖

 しかし、近年、志津川湾でのギンザケ養殖には、海水温の上昇による影響が出始めています。
 県漁協戸倉銀鮭養殖部会佐藤正浩部会長「7月の末まで養殖ができないようになりましたので、20日前後に終わってしまうような形です」

 冷たい海にすむ魚であるギンザケが生育可能な水温は10度から20度。20度を超えると、餌を食べなくなったり水中の酸素濃度が低下して酸欠状態になったりします。
 7月の志津川湾周辺の海水温は、温暖化の影響で20日ごろから24度を超える日が続き、ギンザケが死ぬなどの被害が発生。出荷できる期間は、例年より1週間ほど短くなりました。
 県漁協戸倉銀鮭養殖部会佐藤正浩部会長「環境の変化にも打ち勝つようなやり方で頑張ってやっていますけれども、なかなかそれが年々違うとなると日々勉強という感じですかね」

石巻産オリーブを餌に

 地域にとって貴重なブランド魚である養殖ギンザケを、温暖化の影響から守るための研究が石巻専修大学で進められています。理工学部生物科学科の角田出教授は、ギンザケが高い水温でも生息できるような効果を持った新しい餌を開発しました。
 餌に使うのは、石巻市内で育てられたオリーブです。
 石巻専修大学理工学部生物科学科角田出教授「魚粉を中心とした普通の餌に、オリーブの先の葉っぱ、あるいはその搾油かすのちょっと加工したものと特定の植物飼料をちょっと加えて練り込んで再形成したものです」

 石巻市では、2014年から北上地区や河北地区など4つの地区で、津波で被災した宅地や水田の跡地を活用してオリーブを栽培しています。
 市は、復興のシンボルとして特産化を進めていて、2021年の収穫量は725キロに達し、約40リットルのオリーブオイルが出荷されました。

 一方で、オリーブオイルを搾った後のかすや葉っぱなどの活用方法が課題となっていました。
 石巻専修大学理工学部生物科学科角田出教授「結局は搾った後っていうのは、かすになるとそれだけだとちょっともったいないということで、これをもう少し何か価値のあるものにできないかっていう時に、ちょうどこれが北限のオリーブでもあったので、そういったものを使ってこの辺りで有名なギンザケを育てることができないかと」

 オリーブの搾りかすや葉っぱの活用方法として角田教授が考えたのが、ギンザケの餌として使うことでした。
 角田教授は、実証実験として大学内に設置したいけすで1000匹ほどのギンザケを養殖。ギンザケが生育可能な水温20度を超える22度の状態にして、オリーブを混ぜた餌を与えました。
 石巻専修大学理工学部生物科学科角田出教授「まず、これを食べると食いが良くなる。あとストレスに対して強くなる。免疫力も強くなる。免疫力が強くなってストレス耐性が強くなると高温に対しても耐えるようになる」

特別な餌を実用化へ

 オリーブ入りの餌を食べたギンザケは、他の餌と比べて熱から体を守るたんぱく質を多く発生させた他、高温に対するストレスを軽減させることが確認され、ギンザケが高い水温でも生息できる可能性が示されました。
 石巻専修大学理工学部生物科学科角田出教授「魚にとっても良いということと、食べた時においしいということも含めてなんですけど、我々としてはようやくこれで多少、今の環境で温度が上がった時に多少は対応できるというふうな魚が作れるんではないかと」

 角田教授は年内にも、実際に海で養殖されているギンザケにオリーブ入りの餌を与え、熱に対する耐性が身に付くかどうかを確かめ、実用化につなげたい考えです。
 石巻専修大学理工学部生物科学科角田出教授「海水温上昇に関しては、これといったことはすぐにできないと思うんです。まずは、その海水温が高くておかしくなっているような魚とか、水産動物に関してはこういった餌を与えたりしながらしばらくはうまく育ってもらうつまるところ解決のための時間稼ぎでもあるんですけど、その間に根本的な解決ができれば」