医療の現場に導入が進められている人工知能=AI。感染症の予測からがんの治療まで、AIを活用した新しい医療の最前線です。

 宮城県名取市の認定こども園です。新型コロナにインフルエンザ、夏風邪など、保育の現場では日々、様々な感染症への対策が欠かせません。
 名取みたぞのこども園伊藤陽子園長「流行る時期の予測がすごく難しかったので、夏にインフルエンザが流行るとは思っていなかったです」

 対策の指標に使っているのが、感染症の情報アプリPRESIGNです。名取市では2020年から導入し、誰でも無料で使用できます。
 このアプリでは、全国各地の保健所の管轄ごとに発生中の感染症の種類や症状の特徴、対策方法まで確認することができます。

感染症情報アプリを活用

 更に、2023年から新たに追加されたのがAIを使った感染症予測です。週1回更新され、新型コロナやインフルエンザなど10種類の感染症について次の週に感染者がどれくらい増えるのかを確認できます。
 名取みたぞのこども園伊藤陽子園長「今の自分たちの感染症状況だけでなく、東京都とかの感染症状況も確認できるので。今、東京都でこういう感染症が流行っているので、次は宮城県にも来るだろうという予測として活用しています」

 AIによる感染症予測のシステムを開発したのは、東北大学医学部の学生4人です。
プログラミングを独学し、試験勉強の合間にAIを使って研究を行っています。
 東北大学医学部4年生佐藤雄大さん「来週増えそうだという傾向が予測できれば、感染症に苦しむ家族を減らせるのではないか、行動変革を呼び起こすことで減らせるのではないかと思いました」

 佐藤さんたちは過去10年の感染者数や人流、気象のデータなどをAIに読み込ませ、1週間ごとの感染者数を予測しています。分析にかかる時間は10分程度。しかも全国各地の複数の感染症を一度に予測することができます。
 東北大学医学部4年生佐藤雄大さん「AIを使って予測をしています。プログラミングとして作ってしまうと予測するのは1秒ほどでできるが、手計算となると半日ほどかかってしまう」

 分析のスピードに加え、驚くべきはその精度です。
 総合監修・東北大学黒澤一教授「見事にほぼ一致しているんですね、下がっているところまでも予測している。気象データだけではこうはいかなかったかもしれませんし、人の動きとかデータを足したのも精度を上げる要因にはなったと思う。感染症予測が天気予報の予測みたいにあることで、次の行動の計画とかできるというのはいいのではないかと思う」

 AIは、がんの放射線治療の領域にも広がっています。東北大学で利用されている、VMATと呼ばれる最新の放射線治療機器は、放射線の照射口が様々な方向に動き従来の機器に比べて腫瘍にピンポイントに照射することが可能です。
 東北大学病院放射線治療科角谷倫之講師「腫瘍にだけ線量が入りつつ、正常組織の線量をかなり下げることが出来るので、結果副作用が減るという治療になります」

 しかし、VMATの使用は簡単ではありません。放射線を当てる部位を決める、治療計画の策定に時間がかかります。
 パソコン上に表示された患者のレントゲン写真。治療する腫瘍の部分は赤く、それ以外の正常な組織は緑や青で色分けをし、放射線を照射する部位や量について綿密に計画を立てます。
 東北大学病院放射線治療科田中祥平助手「口や脊髄が正常組織となっているので、赤色が来ないように低線量になるように避けつつも腫瘍へ赤色を入れるというのが難しい作業となっている。この1つのプランを作るためには2週間から3時間くらいはかかってしまう」

がんの治療計画をAIで

 こうした現場の負担を軽減させようと4月、東北大学は大学が起業を支援したベンチャー企業と共同で、AIが治療計画を作成するシステムを開発しました。
 AIは実際に使用された治療計画約2万件を学習。新しい患者のデータを読み込むと、熟練の専門家が3時間かけて作成していた治療計画を、わずか1分で完成させてしまいます。内容も専門家が作成したものとほとんど変わりません。現在は研究段階ですが、2025年ごろの実用化を目指しています。

 広く導入が進めば、時間の短縮だけではなく地域や医師の差による医療格差の改善にもつながると期待されています。
 東北大学病院放射線治療科角谷倫之講師「地域に行くと熟練度が不十分な計画者もいますので、そういう施設では品質が落ちる事も実際現場ではあるので、そういうところをAIのシステムを使って均平化を実現できると思います」