事件の捜査や行方不明者の捜索などで活躍する警察犬の多くが、民間で育てられる嘱託警察犬です。高齢者の遭難が増加し警察犬出動のニーズが高まる一方で、警察犬を育成し共に現場に出動する訓練士の減少が課題となっています。
警察犬は、人の4000倍以上ともいわれる鋭い嗅覚で行方不明者や事件の犯人を探す鼻の捜査官です。犬に指示を出しているのは警察官ではなく、民間の訓練士です。
宮城県警鑑識課菅野康弘次長「嘱託警察犬は所有者さんや指導士さんのご協力を得ながら、犯罪捜査や行方不明者の捜索活動で活躍してもらっています」
宮城県警には警察犬を直接育成する体制が無いため、民間で訓練され警察の要請を受けて出動する嘱託警察犬の協力が欠かせません。審査は毎年行われ、においを嗅ぎ分ける選別や現場の遺留品を見つける捜索などの部門で合格すれば、嘱託警察犬として1年間活動します。
訓練士の松本章さんは、宮城県大崎市のドッグスクールで警察犬の訓練やペットのしつけトレーニングを行っています。訓練士として約30年で延べ30頭以上の警察犬を育成してきました。
5年目のベテラン、ターリアは2025年5月に大崎市鳴子温泉近くの山中で遭難した80代男性の発見に貢献しました。男性は家族と山菜採りをしている最中にはぐれ、通報を受けた警察がヘリコプターも出動させて捜索しましたが、その日は見つけることができませんでした。
松本さんとターリアは要請を受け、翌日の早朝から捜索に加わります。所持品のにおいを元に男性の足取りをたどっていくと、崖の手前で男性のにおいがあることを示したということです。
松本章さん「鼻を高く上げるような様子が見受けられたり、崖の下だったのでその辺をのぞき込む」
その後、崖の下での捜索が行われ行方不明になってから約27時間後、沢のほとりで動けなくなっていた男性が発見されました。発見後には雨が降り始め、状況が悪化していた可能性もありました。人には見えない手掛かりを追ったターリアの働きが、男性の命を救うことにつながりました。
松本章さん「人命第一なので早期発見が一番なのかなと、それに貢献できたことはうれしかったです」
高齢化に伴って、全国では認知症が原因の行方不明者数が年々増加傾向にあります。こうした中、わずかな手掛かりを頼りに行方不明者を捜し出す警察犬の需要は高まっています。実績を残した先輩の後を追う2歳(取材当時)のグロリアは、2026年に初めて嘱託警察犬に任命されました。
松本章さん「甘えて飛びつきますし、べったり寄ってくる遊んでって感じです」
訓練は、山で遭難した人を探すという想定で取材記者を捜索してもらいます。手掛かりは首筋のにおいを付けた布です。200メートルほど離れた東屋にいる記者の居場所をたどります。勢い良く走り出したグロリアは、迷うことなく記者を見つけ出しました。
松本章さん「捜索、特に現場での反応は嬉々としてやってくれるので、やる気を感じてるのでこっちも頑張らないと」
警察犬出動の需要は今後更に高まることが予想される一方で、犬たちの活躍を支える訓練士は後継者不足が大きな課題となっています。警察犬の訓練士やオーナーなどを含む日本警察犬協会の会員数は、10年間で1400人以上減少しました。会員の半数以上が60代以上と高齢化も深刻です。
松本さんは、ペットを飼う目的や関係性が変わってきたことが背景にあるのではないかと話します。
松本章さん「うちの親の頃は、ステータスで犬を飼う方が多かった。血統書付きの良い犬だから訓練して警察犬に、という方もいらっしゃったのかな。今は家族なので」
大型犬の飼育にはコストがかかるため、飼う家庭そのものが減っていることも要因の1つです。餌代や医療費などを合わせると1頭当たり月2万円から3万円が必要になります。
宮城県警は、餌代として警察犬の指導者とオーナーそれぞれに月3000円を補助するなど活動を支援しています。2026年秋の審査会では、小型犬などもエントリーできるよう犬種の制限を無くす方向で検討するなど担い手の確保につなげたい考えです。
松本章さん「ワンちゃんの活躍する場っていうのはなかなか人ではできないことなので、裾野を広げられるような、訓練士もうまく育てて入ってきやすいようになってくれればいいかなとは思う」
人には見えないわずかな手掛かりを追う警察犬の活躍を支える訓練士も、次の世代を育てる体制の確保が求められています。
松本章さん「いつでも出動や要請がかかるとなったり、現場に行った時にプレッシャーもあるしハードルが高いのかなとは思いますけど、そこを育てる役割も果たしているので、現場に呼ばれれば出られる限り協力して、その中で成果を上げられればいいかなと思います」