主に、西日本で生産されているミカンですが、実は今、宮城県でも栽培されるようになっています。背景にあるのは地球温暖化による気温の上昇です。最北のミカン栽培に挑戦する男性です。

 宮城県亘理町の直売所に並ぶミカン。その名は仙台みかん。山元町で栽培された国内最北のミカンです。
 買い物客「私、山元町生まれなんで来たんですけど、良いと思います」
 おおくまふれあいセンター阿部竜太さん「日本最北端の温州みかんとして、たくさんのお客さんから問い合わせいただいておりまして、好評でお買い求めいただいております。特徴としましては、新鮮なミカンということで、昔ながらの酸味と甘みのバランスが取れたミカンとなっております」

日本最北のミカン栽培

 このミカンを栽培している山元町の斎藤正直さん(82)。町内唯一のミカン農家です。
 ミカン農家斎藤正直「出来はね、前の年よりも少し粒が大きい感じ」
 4年前から町内の約40アールの畑で、ミカンの栽培を始めた斎藤さん。苗木が育ち前のシーズンに初めて出荷し、今シーズンも順調に収穫を迎えました。
 ミカン農家斎藤正直さん「(この場所でミカンが)作れるってことを実証したいってことだと思うんですよ、最終的にはね。それを孫にバトンタッチしたいね」

 もともとナバナや白菜などの葉物野菜を生産していた斎藤さん。80歳を目前に、何か新しいことに挑戦したいと思っていました。
 そんな時、取引先である青果の卸売会社から「温暖化の影響で、長崎県西海市でミカンが作れなくなっている。宮城県で作ってみてはどうか」と持ち掛けられました。
 ミカン農家斎藤正直さん「話があって、正直さんミカン作らないかって言われて、たまたま自分も何かミカンみたいなもの、柑橘類良いなと思ってたんですよ」

 農林水産省によると、温州ミカンの栽培は年間の平均気温が15度から18度の地域が適しています。しかし、ミカンにも地球温暖化の影響が。
 温州ミカンの栽培適地を表した地図です。1981年から2000年の栽培適地に比べて、2046年から2055年ごろにはより内陸部にかけて拡大。日本海側や南東北の沿岸部まで広がり、栽培に適さない高温の地域の広がりも予測されています。
 データがある山元町に隣接する、亘理町の年間平均気温は1977年は11.7度でしたが2022年は12.8度と約半世紀で1.1度上昇しています。
 ミカン農家斎藤正直さん「(昔は)この辺のため池に氷が張って氷の上で遊ぶことができたんですよ、それぐらい寒かった。(今は)1日で溶けるぐらいの薄氷しか張らない、それぐらい温暖になっている」

ミカン栽培にも温暖化の影響が

 斎藤さんは、最北の地でのミカン栽培に魅力を感じ、挑戦することを決意しました。
 ミカン農家斎藤正直さん「(西日本は)年間を通して気温が高いんで、良質なミカンが少なくなってきてる。宮城県の南の方だったら(良質なミカンが)取れるんでないかな、作れるんでないかな」
 視察で訪れた長崎県のミカン畑を見て、ミカン栽培への思いを強くしました。
 ミカン農家斎藤正直さん「長崎県に行ったら、本当、ものの見事だよ。こんなきれいにミカンがなってすごいなって、こんなふうになれたら面白いなって本当に」

 4年前、斎藤さんは長崎県のJAから取り寄せたミカンの苗木300本を自身の畑に植えました。当初、周りの人たちからは、心配する声もあったと言います。
 ミカン農家斎藤正直さん「みんなミカン植えたと言っても5本10本だと思ってた。でも300本植えたとなればそれは大変な話で、本当にミカン作れんのかと言うのと大丈夫かと(寒さで)木が枯れるって言われた」

 実際に東北ならではの課題にも直面しました。
 ミカン農家斎藤正直さん「2021年3月に南岸低気圧があって、湿った雪が降ってその時にミカンの葉が全部落ちた」
 それでも木の根元に稲わらを敷き詰めて寒さ対策をしたり、長崎県の生産者の支援を受けたりしてミカン栽培に励みました。
 そして、苗木を植えてから3年が経った前のシーズン、ついにミカンが実りました。約200キロを収穫し、初めて店頭で販売することができました。

店頭でも販売

 今シーズンも順調に色付いた、最北のミカン。町の新たな名産にと地元の人たちの期待も膨らみます。
 おおくまふれあいセンター阿部竜太さん「斎藤さん自身も新しい試みにチャレンジしてここまで形にしてもらったので、私どもとしても後押ししていければなと考えております」
 今シーズンは、前のシーズンの1.5倍、約300キロを出荷する予定です。
 ミカン農家斎藤正直さん「まだ序の口ですよ、本当に。まだ序の口、木が2年3年と大きくなった時に実った状態になったらもっと見事になると思う。頑張って楽しみを良い方向に向けたいなと思います」