障害のある人に不妊手術を強制していた、旧優生保護法をめぐる問題についてです。手術されたことを知らされていない被害者もいる中、知人の証言で被害を知ったという県内の男性とその兄の思いを取材しました。根津記者の報告です。

 千葉利二さん、72歳。知的障害があり、兄の利継さん夫婦と栗原市で暮らしています。利二さんは、20代前半のころ、障害を理由に不妊手術を強制されました。
 不妊手術を強制された千葉利二さん「治してほしいと思います」

 しかし、兄の利継さんは、意思疎通が難しい利二さんからはもちろん、両親からでさえ手術のことは聞いたことがなかったと言います。
 兄・利継さん「一言もその手術のことは聞いたことがないです」

千葉利二さん

 旧優生保護法や手術のことについて知ったのは、2019年4月に国が被害者1人当たり一時金320万円を支給する救済法が成立した時です。
 ニュースを見た近所の知人が、利二さんも50年ほど前に手術を受けていたはずだと教えてくれました。
 兄・利継さん「強制手術の案内が来たからって、親父がその(近所の)おうちに行って、親父の同級生だからそこに行って相談していた。
それをその方が聞いていたわけ。それを思い出して(法律成立の)新聞を見て、こういうことだって(教えてくれた)」

千葉利二さん(左)と兄の利継さん(右)

 障害者を淘汰しようとする優生思想に基づいて、1948年に制定された旧優生保護法。国が知的障害がある人などに不妊手術を強制する根拠となっていた法律です。
 不妊手術を強制された人は、1996年に改正されるまでの間、全国で約2万5000人、宮城県では全国で2番目に多い約1400人に上っています。
 兄・利継さん「ほとんどは結局、家族しか分からないのさ。一番許せないのは、やってはいけないことは障害者をターゲットにやったそのものがとても許せるものではない」

 しかし、手術のことを知らず、声を上げることができない被害者は数多くいます。
 これまでに一時金の支給が認定されたのは、全国でおよそ1000人、宮城県では110人ほどにとどまっています。
 利二さんは、手術記録は残っていませんでしたが、知人の証言を手術の証拠として提出し、一時金の支給が認められました。
 ただ、被害者や支援者からは、320万円という一時金は十分ではないとの声が上がっていて、課題は残されたままです。

東京で大規模な集会

 全面解決には程遠い、旧優生保護法をめぐる問題。被害者や支援者は被害実態の調査や検証、謝罪と補償などを国に求めています。
 10月25日、東京で行われた集会には、全国から約1500人が参加。2005年までの宮城県知事、浅野史郎さんの姿もありました。
 浅野史郎元宮城県知事「優生手術の実態調査についての要望がなされましたが、県はその要望に応じませんでした。私が宮城県知事に在職していた時のことです。これらのことについて、改めて心からのおわびを申し上げます」

 旧優生保護法の裁判で、全国弁護団の共同代表を務める新里宏二弁護士は、訴訟を起こし世論に訴えていくことで被害者が声を上げやすい態勢を作っていきたいと考えています。
 全国優生保護法被害弁護団新里宏二共同代表「全面解決っていうのは、裁判を訴えている人の力で、裁判を訴えられない、だけど深刻な被害を(抱えている人の分も)みんなで解決していく。そういう機運が非常に盛り上がってきた。周りの人が協力して、被害者が声を上げる態勢をどう作っていくか。それが大きな世論形成につながって、権利救済につながっていくんだと思います」

国には被害者を掘り起こす責任

 利二さんは9月、憲法が補償する個人の尊厳や子どもを産み育てる権利を侵害された上、長年、国が障害者への差別を助長し救済措置を怠ってきたとして、国に3300万円の損害賠償を求める訴えを仙台地裁に起こしました。
 自分の弟のような家族も気付いていない被害者が、まだまだたくさんいる。兄の利継さんは、国には、そうした被害者を掘り起こしていく責任があると考えています。
 兄・利継さん「私の体験で、そのようなことはこっちから話しかけないと出てこないのが現状。それを国が動いて話してやって、おわびと共にちゃんとした責任を果たしてもらいたい」