仙台市地下鉄の延伸を公約に掲げた宮城県富谷市の若生裕俊市長は、市の交通戦略に盛り込むなど地下鉄延伸に熱い視線を送り続けています。
宮城県大衡村に住む千葉圭人さん(18)は、大和町の停留所からバスと地下鉄を乗り継ぎ仙台市の専門学校へ通学しています。利用するバスは、午前6時35分発です。
千葉圭人さん「始業が午前9時からなのでそれより早めに行かないといけないので、午前8時くらいには着くようにしてます。このバスに乗れなかったらギリギリになってしまうのでそれが大変です」
この日は渋滞に巻き込まれることもなく、バスに揺られること1時間ほどで仙台市地下鉄南北線の泉中央駅に到着しました。
千葉圭人さん「(地下鉄ができたら)朝もこんなに早くないと思うので、少しは余裕を持って行ける時間になると思うので伸びてくれたらうれしいなと思います」
富谷市を中心とした仙台市の北のベッドタウンは、周辺の大和町や大衡村を含めると人口の1割に当たる9000人余りが通勤や通学で仙台市に通っています。
多くの自治体が高齢化と人口減少に悩む中で、富谷市の人口は5万人と50年間で10倍に増加し、現在も宅地が造成され住宅が建設されています。
若生裕俊富谷市長「新たな公共交通の軸、これは間違いなくほとんどの富谷市民が必要だと思い望んでいる最も大事な政策です」
泉中央駅からの地下鉄延伸の整備は、1月の市長選挙で3選を果たした若生裕俊市長の1丁目1番地の公約です。富谷市が町だった8年前の町長選で初当選した時から掲げてきました。
富谷市の基本計画によりますと、延伸区間は泉中央駅から明石台地区までの約3キロです。仙台市泉区の将監トンネルの下を通るAルートのほか、将監団地を抜けるBとCルートの計3つのルートが検討されています。
仙台市泉区の明石南地区に中間駅を設けるほか、BとCのルートでは将監小学校付近にも駅を設ける計画です。
延伸にかかる事業費は約350億円から450億円と見積もり、2年前には公共工事に民間の資金を活用するPFI方式を採用できないか調査を始めました。
2022年度の決算では16億円余りの損失で7年連続の赤字となった仙台市営地下鉄ですが、若生富谷市長は延伸が経営の厳しさを救うことになりうると意気込みます。
若生裕俊富谷市長「延伸することによって乗客数が増えますし、結果として収益の拡大につなげられるように私たちも努力したい」
富谷市が独自に算出した推計では、市の人口は2055年に6万人を超えピークを迎える見通しです。これを前提に2040年度に延伸部分が開業した場合、1日1万4000人の利用で開業から21年から33年後に黒字化が見込めるとしています。
仙台市は富谷市の試算に対して「採算がとれる需要があるか」や「民間資金を活用するPFI方式の導入が交通でも成立するか」などを課題としていますが、検討段階とあって、具体的な協議はまだ始まっていません。
郡仙台市長は、選挙公約として話題に上った際にも冷静な見方を貫いています。
郡仙台市長「富谷市においても様々な検討がなされていくものと思っておりまして、仙台市としてはまずはその内容を確認しておきたい」
バスの利用客も延伸に対し意見は様々です。
「将監トンネルが混むので朝とかこの時間、だからもし地下鉄が延びるんだったらすごくうれしいなと思います」「私は反対ですね。孫や子どもの世代に借金を残すだけですからね」「別のことで税金使えるのであれば、地下鉄よりはバスの本数増やすとか別のことに使ってもらえるのがいいかなと思います」
地域交通に詳しい宮城大学の徳永幸之教授は、既に車移動を前提に街が作られた富谷市単独での延伸計画には限界があると見ています。
宮城大学徳永幸之教授「基本、鉄道はある程度距離がないとそのメリットが発揮できないので(仙台市と)一体として富谷まで伸ばすのであれば話は別ですけど、単独で1駅、2駅だけ独立した事業体でやるのはなかなか難しいかなと」
ただ、この先企業誘致が進み、人口増加が見込まれる大和町や大衡村を巻き込んで議論し、路線バスや高速バスとのアクセスも含めて一体的に考えていく必要があると指摘します。
宮城大学徳永幸之教授「今住んでいる人を対象にすると、地下鉄の効果はものすごい小さいんですよ。だけど地下鉄ができてからその周辺に住み始めた人、あるいは地下鉄ができてから通勤を始めた人たちは、今までの人たちに比べて2倍から3倍ぐらい地下鉄を利用してくれている。30年先、50年先のまちづくりを考えて鉄道は考えていかないといけない」