仙台市出身の監督が、長編のアニメ映画を制作しました。新型コロナをきっかけに独学で作り始めた作品が、海外の映画祭にノミネートされ注目が集まっています。
映画「無名の人生」は、無口で孤独な少年が芸能界を目指すところから始まる物語で、主人公の100年の人生を疾走感あふれる描写で全10章をつなぐ長編アニメ作品です。監督を務めた仙台市出身の鈴木竜也さん(30)は、山形県の東北芸術工科大学で映像を学び「無名の人生」を1年半の期間をかけて1人で作り上げました。
9日に行われた先行上映はチケットが完売し、先の予想もつかない内容に多くの映画ファンをうならせました。
「食い入るように見て、本当に1カットも見逃せない感じで見てました。率直に言って狂ってて面白かったです。良い意味で狂ってて良かった」
新型コロナをきっかけに独学で作り始めたこの作品は、世界最大規模のアニメーション映画祭にノミネートされるなど、大きな注目を集めています。
鈴木竜也監督「内容としては人生の物語とか壮大な一代記みたいなものを作ってみたいということで、こういう作品になりました」
舞台は宮城県、山形県、東京都、そして宇宙です。主人公の少年がアイドル歌手だった父を追いかけるように、自分自身もアイドルの道を目指します。主人公は本名以外にあだ名、ほかの呼び方など様々な名前を獲得しながら波乱万丈な人生を送ります。
鈴木竜也監督「元々、北野武監督の映画とかすごい好きで、人物をただ正面で無表情の人がこっちを見てるみたいなイメージがあるんですけど、僕もそれが好きなのでその影響を受けてそういうカット描いてて」
作品を手掛ける直前まで、東京都の歌舞伎町にあるオイスターバーの店長を任されていた鈴木さんは、新型コロナをきっかけに休業を余儀なくされて実家の仙台市に戻り今回の作品に着手しました。
鈴木竜也監督「コロナ禍で何かを作りたいなってなった時に、バーの電子決済用のタブレットがあったので。今回のアニメも600円で買ったアプリしか使ってないので、絵を書くのには600円しかかかってない。ソフトは3万ぐらいで3万600円しかかかってないんですね、映像を作るのは」
脚本を持たない形で原案、キャラクターデザイン、編集、音楽など全て鈴木監督自らが担当しました。
鈴木竜也監督「本来アニメはどんどん動かさなきゃいけない物だと思うんですけど、技術が無いのでほぼ静止画に近い状態でどれだけ画を持たせられるかみたいなところを逆に工夫していったら、それが僕の個性なのかなっていうことになってああいう作品になった」
タブレットで1枚ずつ書き上げた原画は1000枚以上で、アニメーションとして動かすための調整で少しずつ変化を付けることで原画の数は1万枚を超えました。
鈴木竜也監督「画が止まってても編集でどんどんカットを切り替えていけばテンポを出せたりするし、色々とやり方を見つけていく作業がすごい楽しくて」
作品の中の象徴的な場面には、宮城県民が思いを重ねることができる多くのスポットが描かれています。
鈴木竜也監督「仙台大観音とかせんだいメディアテークとか出てくるんですけど、絵になるなって思ってた場所は住んでいる時にあったので、いつか出したいなと思っていて。アニメ映えする場所がいっぱいあるので」
5月9日に完成した作品の先行上映が、仙台市青葉区のフォーラム仙台で行われました。新人監督としては異例のチケット完売で、満席の中での舞台あいさつに鈴木監督も驚きを隠しきれません。
鈴木竜也監督「満席でありがたいです。/映画が終わった後に絶妙な皆さんの顔を見たいな、と思う感じで終わらせたいと思ってエンディングを作ってて実際にお顔を拝見できてうれしく思っています」
多くの映画ファンが詰め掛け、地元出身の映画監督の作品に絶賛の声が寄せられました。
「まさか地元からこんな方が出るなんてすごく誇り高いです。実際に彼(主人公)が体験しているのか夢の中なのことなのか、天国ではないけど地獄かもしれない」「おかしなことばかり続くんですけど、なぜかすごい整っている画面作り」「めちゃくちゃ感動しましたね。本当にスペクタクルで幻想的で、日常からどんどん飛んでいくところがすごい感動しましたね」
作品には国際的な注目も集まっています。アニメ界で権威があるフランスの「アヌシー国際アニメーション映画祭」にノミネートされたのです。フォーラム仙台の永木秋穂支配人も、若き映画監督にエールを送ります。
フォーラム仙台永木秋穂支配人「国際アニメーション映画祭の中で一番古い映画祭で、しかも最大級の映画祭。1人で作ったインディーズのアニメーションが、そこに出品されるってのはやっぱり快挙だと思いますね」
家族との関係性、芸能界のスキャンダル、薬物問題など社会問題に切り込む映画「無名の人生」に鈴木監督が込めた思いとは。
鈴木竜也監督「何があってもとりあえず生きてた方がいいよねというか、色々なちょっと悲しいニュースを見たりすることがあって落ち込むこともあるんですけど、結局何か生きてたもん勝ちだなそういうことを込めた気はしますね。色々なことをちょっと詰め込み過ぎてそれぞれに受け取ってもらえたらなと」